小池真理子の『沈黙のひと』(吉川英治文学賞)は、死んだ父親のことを書いた半私小説である。父は1923年生まれ、学徒出陣ののち東北帝国大学を卒業して昭和石油に勤めた文人肌の人で、死んだあと、老人ホームから、段ボールひと箱分のAVやら「ウラ本」が出てきたので、それをエッセイに書きたいと『オール読物』の編集者に言ったら、ぜひ小説にと言われてこうなったという。
私はこれを読んで、知的な父親を持っていいなあ、と思ったものだが、それはAVやウラ本のことも含めて思ったのである。私の抱いている偏見では、AVやウラ本を入手して愉しめるのは知能の高い人で、低い人は、直接ソープランド通いをしたり、せいぜい『週刊大衆』やスポーツ新聞でヌードなどを見る程度なのである。現にうちの父親が、その種のものを持っているのを見たことがない。
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昨夜は、里見とんと小津が脚本を書いたテレビドラマ「青春放課後」をBSでやっていた。小林千登勢主演で、想像より良かった。「秋日和」なんかよりいいかもしれない。もっともぶち壊しなのが斎藤高順の、後期小津映画でおなじみの、あまりにアットホームな音楽なのだが、なぜ小津はあんな音楽を好んで使ったのか。誰か考察した人はいないんだろうか。
(小谷野敦)