最初に「結婚」した時に妻は42歳だったが知らなかったのか先輩が年賀状に「小谷野君がパパになるのを楽しみにしています」と書いてきた人がいて、へえ東大卒のリベラルっぽい人も無神経なことを書くもんだなあと思った。まあ何歳であろうと、結婚したら子供ができると決めつけて物を言うのは無神経なんだがね。

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英文科で私と同期だった男がいる。大学に入る時に二浪していたので、年は一つ上。大学院入試は一発で受かった。修士を二年で終えて、駒場の助手になり、二年で都内の大学に就職した。アメリカ文学が専門だったが、しばしば電話がかかってきて、わりあい長電話をしたが、大学での愚痴が多かった。ある時、私に借金を申し込んだ。二万円である。銀行へ振込み、ほどなく返ってきたが、当時の私はまだ院生で、それがなんで専任になっている彼にカネを貸すのか。彼は、黒人音楽の研究がしたいと言い、CDをたくさん買っているのでカネが要るのだと言った。そして「僕には、遊ぶ才能があると思うんだ」と言った。「小谷野、俺のこと軽蔑してるだろう」などとも言った。いつしか、電話はかからなくなった。
 以来二十年、彼は最初に勤めた大学の教授になっているが、黒人音楽についての論文などまったく出ていない。論文の数は五本くらいだろう。いったい彼は、なんで大学院なんか行ったのだろう。