戸籍というのは、だいぶ以前から、家族ないし直系の子孫しかとれないようになっている。これは伝記研究をする者にはなかなか困りもので、考えたら直系の子孫がいないという人物もいるわけで、そうなると誰も見られないというたてまえになる。著作権のように除籍後五十年たてば誰でも見られるというわけではないから、下手をすると永遠に封印されることになる。
それでも、不正取得はあとを絶たないようで、これは弁護士がやるのである。日弁連へ行くと申請用紙があって、それに書き込めば弁護士特権でとれるのだが、といっても、裁判所へ出すとか、医学研究上必要だとかいう理由であって、文学研究では認められない。不正取得というのは、それを裁判所へ出すなどと偽って取得することで、ばれたら弁護士資格停止とか、場合によっては逮捕もありうる。
さて私は弁護士など使わず、研究のためだからというので申請してみたのだが、却下された。その途中で、「どうしても必要なものか」という問い合わせがあった。
これには考え込んだ。そう言われたら、だいたい「研究」というもののあらかたが、どうしても必要なものではなくなるのである。
(小谷野敦)