ソルジェニーツィンの新興宗教ぶり

 ソルジェニーツィンという、東浩紀が最初の論文で扱った作家に、私は長いこと関心がなかった。名前ですら、十年おど前まで「ソルジェニーツイン」だと思っていて、ロシヤ文学専攻の人が「ジェニー」にアクセントを置き、「ツィン」と言うのを聴いていて、はじめはその人の癖かと思って、よくよく見たら「イ」は小さいということに気づいたというありさま。むろんロシヤ語はほとんど出来ない。
 ソ連から亡命したというから、反共作家かと思っていたが、そのうち熱心なキリスト教作家でもあることが分かったりした。「イワン・デニーソヴィチの一日」を読んだのは90年代後半かと思うが、「世界に衝撃を与えた」とされているのに、やたら退屈なので驚いた。そのまま、別に追及する必要性も感じずに放っておいたら、本人は死んだ。でつい先日、アマゾンレビューを覗いたら、強制収容所の悲惨な生活の中で、小さな幸せを見つけて生きていく小説で感動しました、というような新興宗教に入っちゃってます状態のレビューが多いので愕然として一点レビューをつけておいた。あのね、それって立派な、体制擁護の言説じゃありませんか。仮に右翼軍事政権とかに投獄された作家がこんなもの書いたら、左翼は激怒するはずである。「マトリョーナの家」も読んでみたがこっちはキリスト教精神で満々の、しかしさして面白くない小説であった。 

                                                                  • -

著書訂正
『里見とん伝』46p「濁つた頭」→「大津順吉」