団鬼六

 団鬼六が死んだ。私は団の『花と蛇』などは、少しも読んだことがない。SMに興味がないからである。しかし、団に書評をされたことはある。浜田山に住んでいたことになっているが、実際は東高井戸である。が、自転車ですぐである。
 団の新潮文庫に入っている『檸檬夫人』の表題作は、私小説風SM官能小説である。二十歳の大学生である団が、演劇研究会に入り、梶井基次郎の『檸檬』などを勧められて読み、さして美しくもない女と関係してしまった後、会の顧問を日本文学の山崎清作教授に頼みに行く。山崎教授は48歳で、20歳年下の夫人と再婚したところだが、その夫人が楚々として美しく、のち『花と蛇』のモデルにした、とある。こういう私小説テイストが私は大好きである。団は関西学院大学で、この山崎宅は芦屋にある。 
 ところがその和風美人は淫乱で、結局団と関係してしまい、最後は陰部にレモンを置くという、なかなかいい短篇である。
 山崎夫妻は歌舞伎が好きで、主人公が、『勧進帳』を観ましたと言うと、夫人が「團十郎のですか幸四郎のですか」などと訊く。1951年に、團十郎というのはいない。当時はまだ海老蔵である。
 団の母というのは、何しろはじめは国木田虎雄と結婚し、小説家を目指して直木三十五に弟子入りしようとした人である。
 それはさて、この「山崎清作」というのは、誰であるかと考えると、実方清であろうと思う。実方は1951年にはまだ45歳だし、夫人がどうとかいうのはフィクションかもしれないが、その辺は分からない。