演劇などのチケットをいったん買うと、買った側の都合でキャンセルはできない。どこかに書いたような気がするが、私は大学四年の頃、池袋西武のセゾンへ行ってよく切符を買っていた。だからセゾンカードは持っていた。ある日、『キャッツ』のチケットを払い戻そうとした女子がいて、拒否されたのを、追いかけて私が買い取ったことがあった。ちょっとかわいかったが、訊いてみたら藝大の学生だというので、私は音楽をやる女性に憧れていたから、何とかする手立てはないかと思ったが、なかった。
ところが、そのチケットの払い戻しをしたおばさんを、あれは三越だったか、で見たことがある。いきなり売り場の店員を怒鳴りつけるのである。
「あんた、これこないだ買ったけど、平日じゃない! 娘と一緒に行くんだから、平日になんか行けるわけないでしょ! あんたそれ言わなかったでしょ!」
と、凄まじい剣幕なのだが、普通に考えたらこのおばさんが悪いのである。しかし、あまりに凄まじい剣幕で、フロアじゅうに響き渡る声で怒鳴るので、店員はとうとう払い戻し、買い替えを許したのであった。
恐らくそのおばさんは、自分がムリを言っていることは百も承知で、間違えてしまったために、初手から怒鳴りつけるという手を使ったのであろう。
(小谷野敦)
さる小説(文庫版)のアマゾンレビュー。最後の一行がいい。
読みとおすのにこれ程苦痛を感じた本も少ない。
(1)悪文が多い
・一読では意味すらとれない複雑怪奇な文構造
・妙な位置にうたれた句読点
・『○○は、「〜〜〜(長ーい台詞)」といった。』の多用
・『○○(名詞)の△△(名詞)の〜』の多用
赤ペン片手に片っぱしからなおしたい衝動に駆られながらじりじりと読み、数度かんしゃくをおこしかける。
(2)無駄知識をやたらひけらかす
筋と大して関連しない“知識”を、人物の台詞にこれでもかと盛り込む。結果として、登場人物が皆『博識ぶってからんでくるうっとうしいやつ』の雰囲気をまとっている。作者もまんまこういう人間なんだろうなぁと考える。(本筋とからむ法医学関連の知識は面白い部分も多かった)
(3)ご都合主義の展開・魅力に乏しい登場人物
作者が描いた稚拙な『絵』のまま、唐突な場所移動を繰り返し、リアリティに乏しい台詞を吐く登場人物。展開にもほとんど興味をひかれない。誰にも感情移入できない。
適度なストレス・校正の練習・鍋敷いずれかを必要とされる方にお勧めする。