コーテン機

 大学院一年の頃、アテネ・フランセへフランス語の勉強に通っていた。福井芳男(東大教授)の講読の授業だったのだが、おかしなことがいろいろあった。「雑木林」を福井先生が読めなくなって、えーと何だっけ、ざっきりんじゃなくて、と言っていて、私が「ぞうきばやし」と言ったら「それだ!」と叫んだとか。
 それで、畑などを耕すことを、えーと何て言うんだっけと先生が言っていたら、60くらいの老人が「コーテンですよ先生、コーテン」と言い、先生も、ん? そうかな、などと言っていたのだが、帰宅して調べたら、「耕耘」(こううん)のことをこの人が読み違えたのであることに気づいた。耕耘機のこううんである。
 これはなかなか根が深い読み違いで、「云」は確かに「うん」なのだが、「芸」も「うん」である。それを「藝」(ゲイ)の代わりにしてしまったから、分からなくなった。さらにこの人は「転」から類推して「テン」と読んでしまったわけだが、これも本来は「轉」である。だから漢字制限はいかんのである。