森雅裕の不遇について

 乱歩賞作家・森雅裕が不遇に落ちていることは最近知ったのだが、小説業界の裏面を赤裸々につづったとされるエッセイ集『推理小説常習犯』(ベストセラーズ)と、新刊『高砂コンビニ奮闘記』を読んで、どうも首をひねった。
 後者は、アマゾンレビューで高得点がついていて、私も森さんが大変なので売れてほしいからそちらには書かないが、半ばホームレスに近く、やっとありついたコンビニでのバイトが苛酷だといったって、そりゃ、あれは基本的に若者をバイトで雇うもので、それを倉阪鬼一郎の『活字狂想曲』のようにユーモラスに描いているのじゃなくてシリアスに描くから、読物としてどうかと思う。
 それと、どうも分からんのが、森が業界から「干された」という、その経緯が、この二冊を読んでもよく分からないことである。乱歩賞作家だから、講談社と衝突した、らしい、のである。そして、2003年に文庫版乱歩賞全集が出た時に森の受賞作は、作者に無断で森の作品は収録されなかったというが、『産経新聞』によると、葉書で収録の諾否を問う誤字だらけのはがきが送られてきただけだという。高柳芳夫の受賞作も入っていないのだが、高柳は90年に突如作家を廃業している。
 もっとも森は、当時流浪状態だったというから、はがきも届かないわけで、「著者本人の意向により収録しなかった」とある、というが、まさか「著者は消息不明のため」とは書けまい。なお藤本泉は、モロッコあたりで消息を絶ったなどと書いていた人もいたが、ちゃんと東京に住んでいる。(なんか典拠は何だと言ってきたのがいたが、『文藝年鑑』に載っておる。お前ら文藝年鑑知らなすぎ)
 それに、講談社の悪口が書いてあると言われている『推理小説常習犯』は、2003年4月に講談社+α文庫で復刊しているのである。それはいったいどうやって講談社と連絡をとったのか、森に訊きたいところである。
 まあ、私もよくトラブルは起こすが、その経緯については、誤解や事実誤認がないように、細かく記す。ところが森の場合、そこがいつも曖昧なのである。十年間商業出版から干されたというが、+α文庫は出ているわけで、つまり新刊を出させてもらえなかったということなのだが、それはまあ、売れなかったからであろう。森は、最後の商業出版となった『化粧槍とんぼ斬り』は、書評も出た、と書いているのだが、これは産経新聞。妙に産経と縁がある。しかし、書評が出たって売れないものは売れない。
 それに、森が本を出したのは講談社ばかりではなくて、中央公論社ベストセラーズなどあり、ベストセラーズに至っては復刊までしている。それに、どうも森氏の周囲の人たちの対応が冷淡すぎる。
 もちろん森氏に、人々から嫌われるようになった理由の自覚はあるのだろうから、それをきちんと書いてくれたら、面白いものになる気がするのである。