いい夫婦が引き裂かれる日

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/gijiroku/015/08100707.htm

翻訳というのは、極めて動物的な作業なんです。あるテクスト、そのテクストが書かれている言語から別の言語の体系の中に置きかえるという、ひたすら機械的な他者への献身であるわけですね。動物的な献身といってもよい。

 もとより私は、文学研究という側面において決して先駆的な仕事をしたわけではありませんし、亀山はジャーナリストにすぎないといった言説もちらほら聞こえたりもするわけですね。

 というのは、根本的に文学の学といいましょうか、人文学の学というものに対する信仰なり信頼といったものをわたし自身、まったくといってよいほど持っていないということです。文学というのは極めて個人的な営みであり、その個人的な営みがどれだけ普遍的な意味を持ちうるかということについて、はなはだ懐疑的なのです。(中略)つまり、文学の営みについては、現にさまざまな人がさまざまなレベルで文学にかかわりを持っているわけですが、その場合にあくまでも想定されなければいけないのは読者の存在です。(中略)読者の数をどのレベルに設定するのかということが常に問題になるわけです。例えば、ロシア文学の場合、大学の紀要等に書かれる論文は、おそらく著者のほかに数名が読むぐらいだと私は個人的に判断しています。学会誌でも、おそらく10人、20名ぐらいしか手にとって読んではいないでしょう。そうした厳然とした状況がある中で、果たして人文学の再生とか、あるいは文学がどこまで普遍的な学たり得るかといったような、そうした問いかけそのものがほとんど意味をなさないと思うのです。文学の存立基盤が著しく損なわれているといってもよいでしょう。

さすがによく分かっておられる。  

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受賞式に元愛人などが乱入するという小説があったような気がする。だが、受賞式が行われている最中に「あたしはこの男に捨てられたー!」などと叫ぶことはまずできない。雰囲気に呑まれるからである。ではキチガイならどうか。キチガイですらムリであろう。キチガイが人を刺すとか撃つとかいうのはあるが、「あたしはこの男にーー!」と叫ぶのは、キチガイにもできない。なぜならそういう話を聞いたことがないからである。
(例があったら教えてほしい)

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『翻訳家列伝101』のアマゾンレビューに、今のところ二人の気違いが乱入している。片方は「キッズレビュー」だがとても13歳以下とは思えないし、もう一人はそれしかレビューしていない胡乱者だ。あれは基本的データはちゃんと入っているはずだが、この二人は亀山郁夫が二年間役職から外されたとか、鴻巣友季子が美人だから人気が先行しているとか、豊島与志雄が二流でしかないとか、そういう評言が気に入らないらしい。私はまさに、そういう「褒め褒め本」にならないように書いたのであり、この種の翻訳気違いを批判するために書いたのだということは序文を読めば分かる。トボけちゃいけねえ知ってるぜ、お前らみいんあホゲタラだ。「列伝」といえばまんじゅう本的なものしか考えられない連中、偉い先生の推薦でダメな翻訳者が岩波文庫を翻訳してしまう構造、知らないとは言わせない。『嵐が丘』の岩波と新潮の新訳のアマゾンレビュー、小島希里のとか見てみろ。
 どうもこういう匿名の卑劣なる奴が出現すると、ほれ、亀山郁夫の指令で来たのではないかと思ってしまうよ。なかんずく亀山の大佛次郎賞受賞作『磔のロシア』に以下のごときレビューがついていることを思うとね。

実は関係者のレビューです。, 2003/8/13
By カスタマー

著者亀山郁夫先生がこの本を著された時、私は大学に在学中であり、先生のゼミに通っており、卒論を手掛けていました。その卒論がこの著作とリンクしていることもあり、先生は私の獲た情報を取り入れてくれたので、その点については個人的に満足しています。
でも、この本について客観的に見ると、あまり褒められたものではないかと思います。文章が晦渋で読みづらいこと、校正ミスが多いこと、主張に少し無理がなくもないことなどを考えると、一般の方が見るには少し大変であろうと思います(校正に関してはゲラを見た私が見落とした部分もあり、無念です)。

正直に言えば、肩ひじ張って話していながら、実はもっと簡単に言えることをあえて難しく言っているかのように思います。そこで、本書を読まれる方は、一文一文を逐一頭の中で単純化して読むことを薦めます。実際亀山先生の講義についていくのは結構難しかったです。もっとも私の頭が悪いせいかもしれませんが。

内容についてはそれでも一貫性のある主張なので平明な方です。ロシアという一つの器官の一貌をある根底の主張から垣間見ることができるということでまとめています。ただ、ここには書けない裏話(苦労話・また本当にオフレコにした方がいい話)もあって、必ずしも諸手を挙げてお勧めできるものではないので、そこはご了解いただくとして、星3つでお茶を濁すことにします。関係者ということでいろいろ語れるかと思ったら、却って語れなくなってしまうのは、人情に左右されているせいでしょうか………

 もっともさすがに、新聞インタビューに答えたことを書いたくらいで亀山氏がこんなところへ刺客を送るとは思えないがね。つまり、その程度のことでカリカリする「関係者」がいるということなのだろう。

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蓮實・浅田対談@中央公論細川護煕を「近衛の孫」「ボナパルティズム」と言っていたのは15年前だが、鳩山由紀夫もまた「ボナパルティズム」。××の一つ覚え、と評したい誘惑に駆られる。それはもう「春風亭柳昇といえば、わが日本では…」のごとし。いやむろん蓮實先生はそんなことは分かっておられて、客の期待を裏切らないのである。