倉本聰と野沢尚

 シナリオ作家・推理作家の野沢尚が突然自殺したのは、4年前のことだ。その真相は未だ不明だが、NHKの特別版大河ドラマ坂の上の雲」が原因ではないかとも言われている。
 私は野沢の『破線のマリス』は、テレビ界の暗部を抉った傑作だと思っている。強い正義感の持ち主だと思う。
 その前年、野沢は、倉本聰三谷幸喜と三人で仕事をしている。倉本が三谷に「君は卑怯だ」と言ったと、三谷自身が書いている。
 その倉本は、大河ドラマ勝海舟』の製作中、脚本が書き直されること、演出が脚本を無視することでNHKと対立、決別して、北海道へ移った。当時倉本はまだ40歳だった。民放の仕事はしていたが、多く仕事をしてきたNHKとの決別は、さぞ恐ろしかっただろうと思う。それから数年後になるが、倉本が脚本を書いた映画『ブルークリスマス』を、私は竹下景子目当てで劇場まで観に行った。あまり当たらなかったが、異質な者を排除しようとする社会への、倉本の怒りが感じられる作だった。そういえば田中邦衛も出ていた。
 「昨日、悲別で」は第一回を観てこりゃいかんと思い、ずっと私は倉本聰から遠ざかっていた。その間、倉本は「北の国から」を当て、今や大御所である。私は「北の国から」なんて、どうせアレなアレだろうとずっと思っていたが、2000年の夏に、最初のシリーズが再放送された時に観て、ありゃ意外といいなと思い、その続きをレンタルビデオで借りてきて、今ではすっかりファンである。意外だろうが。ただ最後の回は良くなかった。
 野沢は、倉本を尊敬していたという。そして倉本以上に、推理作家としても評価されていた。もっと、危機から立ち上がった倉本の強靭な生き方から、学ぶことはできなかったのか、と思うのである。

http://www.zakzak.co.jp/gei/2004_06/g2004063009.html