見つけてしまう

 高橋大輔という、どこかで聞いたような名前のライターによる『間宮林蔵・・・』というのが中公新書ラクレで出ていたので立ち読みした。林蔵がアイヌの娘との間に儲けた子孫を探し出してきたのはお手柄だし、シーボルト事件を、林蔵の「密告」によるものとしていないのもいいのだが、高橋景保を介してシーボルトが送ってきた手紙を、林蔵が幕府へ届け出たのはなぜか、などと問うているのはいけない。当時無断で外国人と文通するのは禁じられていたから届け出ただけだと赤羽榮一も私も書いているのに、なんで無視するか。なお参考文献には赤羽の本は載っているが私のは載っていない。どうも高橋は、近世というものをよく理解していないようで、林蔵は高橋にちょっとお灸を据えるつもりだったのが大事件になってしまった、などと書いているが、こういう生ぬるい認識の人がいるから、ロシヤのスパイが大手を振ってまかり通るのだなあ、と思う。

                                                                              • -

 そういえば阪大へ行きたての頃、ヨコタ村上ともう一人と読書会をやっていて、ジョナサン・スウィフトがdeanだという記述を見て「deanって何でしたっけ」と私が言ったらヨコタが「学部長だろう」と呆れたように言うので呆れたことがある。スウィフトは聖職者だから、これは宮廷主任司祭とか、そういう意味である。
小谷野敦