厖大な著作で知られる官能作家・睦月影郎の『追憶の真夜中日記−24年間の記録』(マドンナメイト文庫)はすごい本だ。睦月氏25歳から48歳までの全射精の記録である。『一茶七番日記』には中年になって結婚した一茶のセックスの記録があって、夜一回の時は記さず、夜二回以上、朝の時だけ書いてある。
しかしこれは、妄想の場合は「想」、テレビなら「テ」、映像なら「映」、写真なら「写」といった符号と、その場合に対象となった女優などの名が書いてあり、その他数々のコメントが実に面白い。
しかも、実際に女性と接触しつつ(セックスも含めて)の場合は「実」なのだが、これが次第に増えていく。睦月氏がこの記録をつけ始めたのは、最初の恋人と別れてからだというからそれは書いてないが、85年まで、つまり二十代では、「実」は横須賀のトルコだが、86年に「宮本信子似人妻38歳」と出会ったのが素人相手の始めで、これは全八回、89年には43歳人妻と出会いやはり八回、91年には白石冬美似ホステスと出会い総計24回、とコンスタントに増えていき、96年四十歳の時からは、お茶の師匠の人妻45歳と始まって総計11回、川上麻衣子似人妻と六回、OL31歳と16回、97年には田中真紀子似人妻45歳と始まって総計26回、98年にはサーファー巨乳美女26歳と出会い13回、そして以後は、女子大生、当初19歳と、八年間にわたってほぼ80回なので、これは恋人ではないかとすら思うのだが、それとは別個に99年に「落ちた」水泳インストラクター28歳と32回、2000年に知った超美女とは、彼女が結婚してからも続けて総計56回、2001年からはコンビニ店員の美女と33回、美熟女ママ52歳と35回なので、99年以後はオナニーよりセックス記録になっていて、三日間に別の三人としたりしている。
田中康夫だって書いているだろうと言うかもしれないが、これは24年間、しかも毎日の記録で、途中回数が減ってきたと嘆いているが、四十過ぎて年間三百回近くしているのだから凄い。
しかも当初は、かなり年上の人妻が多く、34歳の時に68歳人妻としてげんなりしている。オナニーに使っているのは、当初は佐久間良子が多いが、そのうち、同業者の藍川京、霊能者の稗田おんまゆらなど、わけが分からなくなっていく。
あとコメントの面白さは現物で確認してもらいたいところだ。
それにしても、これだけあって結婚に至らないのは、それがいいからだろうか。私としては「女子大生」が気になる。なぜなら24歳くらいで唐突に「大学院生」が登場するのだが、これが女子大生の後身のようでもあり、その後また「24歳女子大生」が出てきたりするからである。
(小谷野敦)