神戸学院大学の謎・その他

 金益見『ラブホテル進化論』(文春新書)購入。「現役女子大学院生による」とある帯に美人写真。久しぶりの女子院生による新書である。女子院生修論新書でいちばん当たったのは佐伯さんだろう。あとは戸矢理衣奈渋谷知美もぼちぼち。ただこれらがみな東大院生だったのに対し、今度は神戸学院大学という変り種。最近、荻上チキとか若い学者モノは多いが女子は『合コンの社会学』の共著者北村文がいるくらいで、美人らしいがそれでは売らなかった。
 しかし『ラブホテル進化論』の読みどころが、本文ではなくて前書きとあとがきであることは、まあ異論のないところでしょう。学生時分から井上章一さんに会いに行き、京都のホテルのロビーで待ち合わせ、「上に部屋を取ってあるから」なんて言われたらどうしようと不安を感じていたら(そんな危ないこと井上さんはしません)井上さんはロマンスグレーの優しい物腰のおじさん・・・って、最近会ってないが、ロマンスグレーになったのか。おじさんって書かれてショックだろうなあ。
 それで井上さんから『愛の空間』の資料を、もう要らないから、と貸して貰って、書き上げた卒論は周囲では超人気で「見せてくれ!」という人が続出、教授からも絶賛されて、大学院に進むことになり(神戸学院ならでは)、井上さんにお礼の手紙を添えて卒論を送り、井上さんが読んだら絶賛されて、国際日本文化研究センターの職員(?)に推薦されちゃうかもしれない、などと考えていたら、研究会(多分性欲研究会)の呑み会で会った井上さんは、「君の卒論、私の書いたものをまとめただけでつまらなかったけど、大学院に進めてよかったね」でガーン。言う時は言う井上さんである。
 その後、担当教授の自宅に呼ばれて「博士課程へ来ませんか」と言われる。ああ、これが水月昭道くんが書いていた、三流私大の無責任なあれか・・・。まあ美人だからアレだろうけど。
 そしてもちろん、中味はインタビューやらアンケートやらの成果で、ルポでしかなく、まあ・・・。いやあ、三流大学の院生は天真爛漫。美人なればこそ、ってところか。
 ところでその神戸学院大学は、歴史ある名門神戸女学院大学とは関係ない。そして『愛と性の尊厳』という昨年出た本の共著者で「愛しているから、結婚までセックスはしない」を書いた石崎淳一という人がここの准教授なのだが、その本の新聞広告に「石崎淳一(心理学准教授)」とあって、「心理学者」とか「××大学准教授」なら分かるが、「心理学准教授」って何だ、と思ったものである。謎の神戸学院大学である。しかし、イクキョンがこれからどうなるか分からないが、「美人」が「ラブホテル」について書いたから本になったのであって、神戸学院大学の院なんか行っても未来はないので、みなさん勘違いしないように。

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文學界』を立ち見してきた。古井由吉高橋源一郎車谷長吉中原昌也など十数人の作家の座談会。なかで山崎ナオコーラが、毎日新聞川村湊の文藝時評を読んで怒っていて、「もてない男って女性を」云々と言っているのでぎょっとする。川村湊もてない男だったのか。断っておくが、私は山崎についてはブログを含めて何も言ったことはない。読んだことがないからである。実はこの間に私に関する言及があったのを削除したのではないか、ナオコーラの悪口をどこかに書いたのではないか、などと邪推する人がいるといけないので書いておく。古井が山崎に、それは言わないほうがいい、とたしなめて止まっているのだが、止まったから逆に疑念を呼び起こして、実は山崎は自作評ではなくて何か私に含むところがあってそう言ったのではないかという勘ぐりも可能なので、言いたいことがあるなら言ってほしいし、私とは全然関係ないならそう言ってほしい、と思った。
 それにしても、作家と批評家が対立関係にあるみたいな言い方はおかしいのであって、作家だって時評で悪く書くことはあるし、作家から言われるならいいが批評家から言われるのは嫌だ、というのは、実はちょっと理解するのだが、昭和初年は作家でもけっこう厳しい時評をしたものである。私はごく単純に、文芸雑誌の編集部が、厳しいことを言う批評家、たとえば糸圭秀実渡部直己に始まって、斎藤美奈子とかを排除しつつあるのではないかという疑念すら抱くのである。『文學界』の相馬悠々は、編集長が代わってからえらくマイルドになったし。斎藤さん、『週刊朝日』の桜庭一樹評、ナイスでした。
 あと『群像』では瀬戸内寂聴山田詠美と高橋の鼎談があって、山田が、最近の喫煙者迫害はひどい、と怒っていたが、それを別にしても、世間の人は山田詠美を誤解しているのではないかと思う。今回の芥川賞の選評でも、西村賢太に触れたのは二人だけで、半分近くを使って西村を論じ、ずっと読んでいると表明したのは山田である。しかし注意深くない人は、山田が西村の小説を読んだら、こんなクズ男が、というようなことを言うとでも思っているのではないかという気がする。
 ところで、どちらにおいても高橋源一郎がいて、何だか次第に権力者と化しつつあるような気がするのだが。
 (小谷野敦