「俺っちのウェディング」を40年ぶりに観る

ピンク映画出身の根岸吉太郎が監督した「俺っちのウェディング」( 1982 )は、オリジナル作品である。時任三郎が演じる長崎出身の若者が、宮崎美子と結婚式をあげようとしていたら、ウェディングドレスを着て顔を隠した女が、いきなり宮崎美子を刺し、鞄に入…

高橋睦郎と黒田杏子と大石悦子

詩人・高橋睦郎(1938- 、芸術院会員・文化功労者)が、KADOKAWAの『俳句』の、俳人・黒田杏子の追悼文で書いたことで黒田の家族らがKADOKAWAに抗議し、編集長と高橋が謝罪したというが、別に事実でないことを書いて謝罪したのではなく、事実を書いたことを…

シャーロット・ギルマン「フェミニジア 女だけのユートピア」

シャーロット・ギルマン(1869-1935)は、米国の作家・女性運動家で、「フェミニジア」とされているのは原題を「ハーランド」といい、1915年、第一次大戦中の作である。 1981年に翻訳されているが、訳者の三輪妙子(1950- )は、ヴァンクーヴァーで二人の子…

中野重治「四方の眺め」に呆れる

中野重治という作家は、私が高校生の時に死んだが、プロレタリア文学の作家ながら言葉について厳格な人で、世間が総理大臣のことを「総理」と呼ぶのはおかしい、それは文部大臣を「文部」と呼ぶようなものだと言っていた。当時私はなるほど、と思って感心し…

博士号について

日本の人文系の博士号について、ちょっと説明しておく。夏目漱石の博士号辞退などを想起する人もいるようだが、あれは漱石が博士論文を書いたわけではなく、文部省が一方的に授与しようとした名誉称号だから、今言っている博士号とはまったく別のものである。…

平野謙「新刊時評(下)」を読む

面白そうな本が出てきたら図書館で借りて読みという具合で平野謙「新刊時評」上下を読んだが、下巻は1960年代から72年に大江の「みずからわが涙・・・」の「誤読書評」で書評の筆を折るまでと、75年の『中野重治批判』と共産党関係の本の書評まであった。下…

有馬頼義と二・二六事件

作家・有馬頼義は華族で政治家の有馬頼寧の息子だが、1967年2月25日の「朝日新聞」に「二・二六事件と私」を載せて、同事件は革命ではなく単なる人殺しだと述べた。これに対して河野司が3月5日の同紙で「二・二六事件の意味 有馬頼義氏に反論する」を載せ、…

堀田善衛「若き日の詩人たちの肖像」を三分の二読んだ

堀田善衛といえば、宮崎駿が大ファンを公言しているため、最近また読まれているようで、これも集英社文庫で二冊で出ている。自伝的小説だろうが、読んでいて小説を書く技術がうまいのには感心したが、ちょっと登場人物がヨーロッパ文学に心酔しすぎで、大江…

丸岡明の「ひともと公孫樹」

丸岡明は、原民喜と親しく、能楽書林の経営者でもあり能楽にも詳しかった作家で、佐藤春夫門下だったが、「ひともと公孫樹」は戦後の佐藤春夫を描いて、柴田錬三郎との関係や、佐藤の作品「日照雨(そばえ)」成立の事情を描いたものだが、肝心なことは書い…

丸谷才一と林房雄

丸谷才一の初期中編に「思想と無思想の間」(「文藝」1968年5月号)というのがある。芥川賞をとる「年の残り」が同年3月だからその直後のもので、林房雄をモデルとしているようだが、現実と小説の関係は入り組んでいる。視点人物は塩谷実という、推理小説の…

小田実と「細雪」

小田実に「現代史」という、1500枚くらいある長編小説があって、それが谷崎の「細雪」を下敷きにしているということを最近知った。これは題名からはちょっと想像がつかない。それで図書館から「小田実全仕事」の4巻にまとめて入っているのを借りてきて斜め読…

私小説時系列順

西村賢太の私小説を時系列順に並べていた人がいたが、私のはやってくれる人がいないので自分で作ってみる。 ・ミゼラブル・ハイスクール一九七八(高校時代)「童貞放浪記」所収 ・グンはバスでウプサラへ行く(大学一年)キンドル版 ・すべての男は変である…

ウォークマンの登場

ウィキペディアには月日が記されていないが、ウォークマンがソニーから発売されたのは1979年7月1日である。値段が当初は高かったせいか、大きな広告などは打たれなかったので知名度が低く、私は当時高校二年だったが、夏休み明けに担任教師が、「今のはやり…

新刊です

「もし「源氏物語」の時代に芥川賞・直木賞があったら」(秀和システム) 著書訂正 :20p『源氏物語』の英訳は三種類→四種類。四つ目はデニス・ウォッシュバーン :23p 「道長の弟の頼通」→「息子の」 :40p、9l「書記」→「書紀」 :53p、「定家の子の代で…

音楽には物語がある(59)ミスター・シンセサイザー 「中央公論」11月号

タモリと子供たちが歌った「ミスター・シンセサイザー」という歌は、1980年に「みんなのうた」で放送された。当時、新しい楽器として注目されていたシンセサイザーを顕揚する児童歌で、「ハナモゲラ語」などで知られ、表舞台へ進出してきたタモリが、歌の途…

平野謙「新刊時評(上)」を読む

私は平野謙に詳しいわけではないし、杉野要吉に批判されているのは知っているし、川端康成没後、耕治人の作品にことよせ、川端を陥れようとしたのも知っているが、近松秋江を評価した人でもあり、なかなかに見逃しがたいが、こんな本が全集とは別個にあった…

将棋とチェス

囲碁や将棋の世界で、男女差が歴然としているのはよく知られている。1996年のNHKの朝の連続テレビ小説「ふたりっ子」では、初の女流プロを目指す女子を岩崎ひろみが演じていたが、それから27年たって、やっぱり女流プロというのはいないのである。 男女で肉…

曽野綾子「観月観世」の謎

曽野綾子に「観月観世 或る世紀末の物語」という小説があり、集英社から2008年に出て、文庫にもなっているが、誰もアマゾンレビューを書いていない。これは1982年から25年かけて散発的に書かれた連作小説で、 「観月観世」「新潮」1982年2月 「祝福の夜」「…

森茉莉書簡集「ぼやきと怒りのマリア」を半分読む

森茉莉というのは、若いころ『甘い蜜の部屋』を読んで、こりゃたまらんと思ってあとは読まなかった。「ドッキリチャンネル」を何かの必要があって覗いただけである。しかしショーノヨリコの小説を読んで最近の書簡集があるのを知り、新潮社の担当編集者だっ…

瀬戸内寂聴の表情

私は原一男が井上光晴を撮った「全身小説家」を、2000年ころに一度観かけて、あっこれはガンで死ぬんだと思い、つらくて観るのをやめたが、最近になって、改めて観た。井上が文学伝習所の女性参加者を次々と食ってしまうあたりが話題になっていたようだが、…

「これなら私にも書ける」

笙野頼子の「幽界森娘異聞」の講談社文芸文庫版解説は金井美恵子で、同作が泉鏡花文学賞を受賞した時、金沢で催された授賞式で笙野はいきなりある女性作家からおめでとうと握手を求められ、「これなら私にも書けると思った」と言われ、その後で会った金井に…

吉田知子「鴻」を読む

1971年から75年まで、新潮社から「書下ろし新潮劇場」という戯曲のシリーズが28点刊行されていた。当時、唐十郎やつかこうへいの小劇場がブームだったせいだろうが、別役実や安部公房、井上ひさし、秋元松代、山崎正和など劇作家や戯曲も書く人のほか、辻邦…

アリス・ドレガー「ガリレオの中指」を読んだ

著者はシカゴ郊外にあるノースウェスタン大学の元 教授で、科学史・医学史が専門の女性だが、生年は不明で、恐らく私と同じくらいだろう。『クイーンになろうとする男』という本を書いたマイケル・ベイリーについて書いたためキャンセルされたと思っている人…

主催者は部屋にいていいのか

2004年の1月から3月まで私は麻布高校の教室で、小浜逸郎が主宰する「人間学アカデミー」の講師を務めた。ところが第一回、小浜らに教室に案内されると、もう十二、三人の受講生が集まっていたが、そこへ小浜、佐藤幹夫ら三人以上の、主催者側の人間がどかど…

「アイヌ民譚集」の感想

最近、知里幸恵が採取した岩波文庫「アイヌ神謡集」の新版が出て、知里幸恵の名前がタイトルの上に来て中川裕の校訂になったことでいろいろ言われていたが、別にいいんじゃないか。大塚英志が、アカデミズムの在野への傲慢だとか書評していたが、これはむし…

急に薬をやめるのは危険

私は1995年8月に東大病院で処方を受けてマイナートランキライザーを呑むようになり、それまでのパニック障害や不安障害が緩和されていったのだが、それより前に群ようこのエッセイで、群が若いころ精神状態が悪くなりマイナートランキライザーを処方されて呑…

「高速道路家族」を観た

韓国の「高速道路家族」という映画を観た。「パラサイト」と似た設定だがこちらのほうが面白かった。両親に女児、男児の四人家族が高速道路のサービスエリアにテントを張って生活していて、生活費は父親が詐欺師になって、自動車を降りる人に、財布をすられ…