2023-05-01から1ヶ月間の記事一覧

織田作之助「わが町」感想

織田作之助「わが町」は1943年に書下ろし刊行された長編で、1956年に川島雄三監督、辰巳柳太郎主演、南田洋子の二役で映画化されたのを観たことがあるが記憶にない。1959年に森繁久彌の主演・演出で「佐渡島他吉の生涯」として劇化され、何度か再演された。 …

2022年度小谷野賞

2022年度小谷野賞を発表します。 原基晶『ダンテ論 『神曲』と「個人」の出現』(青土社) 西村賢太『雨滴は続く』(文藝春秋) 年森瑛『N/A』(文藝春秋) (奨励賞)目時美穂『たたかう講談師 二代目松林伯円の幕末・明治』(文学通信) なお小谷野賞は面…

映画「ゾッキ」の感想

2021年の日本映画で、監督は竹中直人、山田孝之、斎藤工の三人。オムニバス映画のようだが、完全に分離していない入れ込み式。舞台は蒲郡で、何ともとりとめのない話が続く。キャストを見ると松田龍平や石坂浩二がいるが、松田は最初のほうに出てくるだけで…

映画「土を喰らう十二カ月」の感想

水上勉の原作の映画化か。沢田研二(74)が、60代後半の人気作家の、信州での田舎の一人暮らしをしていて、編集者の松たか子がときどきやってくる。作家は元寺の小僧だったから精進料理がうまく、てきぱきと料理を作るのが見せどころ。私は特に精進料理に興…

映画「全身小説家」の感想

原一男が井上光晴が死ぬまでを撮影したドキュメンタリー映画「全身小説家」を、私は2000年ころ観ようとしてビデオを借りてきて最初のほうを観て、ガンと診断される場面を見て、これで最後に死ぬんだと思い、恐怖を感じて残りは見ずに返してしまった。 先日、…

映画「待ち伏せ」レビュー

1970年の東宝映画で、三船敏郎、石原裕次郎、勝新太郎、浅丘ルリ子、中村錦之助というオールスターキャストだがシナリオがあまりにポンコツで、観ていて疲れるくらいひどい。西部劇の翻案みたいに見えるが、稲垣が藤木弓の名で小國英雄らと書いたものである…

映画「あのこと」レビュー(私小説作家のポジショントーク)

アニー・エルノーの「事故」の映画化だが、製作はエルノーがノーベル賞をとる前である。私はエルノーのノーベル賞は、私小説は日本だけのものではないことを知らしめるのに良かったと思って歓迎しているが、小説自体をさほど高く評価しているわけではない。 …

映画「あちらにいる鬼」レビュー

井上光晴と瀬戸内晴美の情事を娘の井上荒野が描いた小説の映画化だが、私はまだ原作を読んでいない。図書館で大勢待っていたからで、今見たら一人待ちだったので予約を入れた。寺島しのぶと豊川悦司で、トヨエツは私と同年だからずいぶん若い役をやったこと…

渡辺憲司「江戸の岡場所 非合法<隠売女>の世界」レビュー

著者は前田愛の弟子の、近世戯作が専門だが、概して近世遊里のいくらか趣味人的な研究を読物に してきた。これは岡場所に焦点を当てているが、四宿というより深川に力が入っている。視点は近 世江戸の富裕な町人のもので、最後に「跖婦人伝」を本気になって…

大江健三郎詳細年譜

1850年 曾祖父・八三郎生まれる。 1855年(安政2)内ノ子騒動 1866年(慶應2)奥福騒動 1894年(明治27)父・好太郎生まれる。祖母はフデ。 1902年(明治35)母・小石生まれる。 1914年(大正3)20歳の父と12歳の母が結婚。 1919年(大正8)祖父この頃死…

「察度(さっと)」と「察當(さっとう)」

中村哲郎先生に教えられて、真山青果の未上演戯曲「大塩平八郎」を「青果全集」で読んだが、主として平八郎と宇津木矩之丞の対立を中心とした儒学的なセリフのやりとりで、聞いていても分からないだろうから上演されないのも無理はないと思った。 中で平八郎…

「察度(さっと)」と「察當(さっとう)」

中村哲郎先生に教えられて、真山青果の未上演戯曲「大塩平八郎」を「青果全集」で読んだが、主として平八郎と宇津木矩之丞の対立を中心とした儒学的なセリフのやりとりで、聞いていても分からないだろうから上演されないのも無理はないと思った。 中で平八郎…

アマゾンレビューの言論統制

「土偶を読むを読む」のレビューに、こんな一節があった。 「最初に書いたレビューが、元ネタの本について批判的だったのが理由かどうかはわかりませんが削除されました。。他の人が書いたこの本に対する高評価のレビューも、やはり元ネタの本の間違いを指摘…

中村真一郎「現代美女双六」レビュー

河出書房新社、1994年刊。月刊誌「日本橋」に前半は連載され後半は書下ろしだとあるが、その雑誌の存在を確認できない。全体は12×4の48の断章から成っており、喜寿を迎える著者がこれまで邂逅しけっこうエロティックな関係にあった女性について前時代的な感…

「てい、」の謎

「彼はまだ上がり框に腰かけてい、」といった「い」の使い方は、私は中学生の時に山本周五郎の小説を読んで知ったのだが、初期の大江健三郎にもそういう「い、」はあり、柄谷行人によるとそれは中野重治譲りだという。 熊野大学公式サイト|高澤秀次「追悼:…

スパルタの海 [DVD] アマゾンレビュー(削除された)

戸塚ヨットスクール星3つ - 評価者: 小谷野敦、2023/04/30戸塚ヨットスクールと戸塚宏への評価は、いまだに定まっていない。それは、死者が出ても治る子がいたらいいのか、という疑問への回答を誰もが出せないからだろう。私は戸塚が正しいと思う。当時、戸…

スパルタの海 [DVD] アマゾンレビュー(削除された)

戸塚ヨットスクール星3つ - 評価者: 小谷野敦、2023/04/30戸塚ヨットスクールと戸塚宏への評価は、いまだに定まっていない。それは、死者が出ても治る子がいたらいいのか、という疑問への回答を誰もが出せないからだろう。私は戸塚が正しいと思う。当時、戸…

音楽には物語がある(53)ファンクラブの謎 「中央公論」5月号

サントラ盤と同じくらい謎な存在なのが、「ファンクラブ」である。私は中学三年の時、竹下景子さんのファンになり、ファンクラブへ入ろうと思い、官製はがきに「入会希望」と書いただけで送ったが、返信用封筒も入っていないはがきだから、何の返事も来ず、…

「遊女の文化史」レビューはガイドライン違反だとアマゾンは言う

遊女の文化史―ハレの女たち (中公新書) 新書 – 1987/10/25佐伯 順子 (著)★星2つ13年前に削除したが2019年12月26日に日本でレビュー済み著者本人も今では認めていないだろう。売れているため絶版にならないらしいので教育的配慮から復活させる。一点にしない…

佐藤亜紀「喜べ、幸いなる魂よ」アマゾンレビュー(削除された)

歴史私小説?星3つ - 評価者: 小谷野敦、2023/05/0318世紀フランドル地方で、天才的な数学の才能をもつヤネケと、15歳の時にセックス してしまったヤンのその後の50年を描く歴史小説。ヤネケは子供一人を生んでベギン 会という修道組織に入るが、割と出入り…

エリザベス・ブレイク「最小の結婚: 結婚をめぐる法と道徳」アマゾンレビュー(削除された)

強者の勝利をもたらすだけ 星1つ、2023/05/03 この著者はアメリカと西洋のことしか知らないが、アジアには一夫多妻制というものがあり、今でも事実上の一夫多妻制をやっている「強者」がいる。西洋には「もてない男女」というアイディアは輸出されていないし…