2021-09-01から1ヶ月間の記事一覧

宮崎芳三と批評

『ちくま』九月号に廣野由美子の「批評とは何か」という文章が載っている。ちくま新書の新刊、北村紗衣の『批評の教室』の宣伝文である。廣野は京大人間環境学の教授で19世紀英国小説が専門だ。冒頭、廣野が修士課程を終える時に定年退官した指導教授のM先生…

赤坂真理「愛と性と存在のはなし (NHK出版新書) アマゾンレビュー

こういうことこそ小説に書くべきでは 星2つ - 、2021/09/28 本書では上野千鶴子の東大入学式での式辞を聞いて東大入学する男子が傷ついたんではないかとか、動物に同性愛はないとか書いているが、動物に同性愛はある。当人がトランスジェンダーじゃないかと…

演劇評論家は嫌われる?

歌舞伎評論家・研究者の渡辺保のウィキペディアには「「田舎の人は演劇より北島三郎のほうが好きなんですよ」と差別発言をしたことがある」と書いてあった。今では「差別」は削除されている。 大学で演劇を研究して、こんなものは売れないと覚悟している人は…

スピンクスのインチキ

スピンクス「朝は四つ足、昼は二本足、夜は三本足、これなーんだ」 旅人「・・・うーん、分からん」 スピンクス「ではお前を食うぞ」 旅人「待て、答えを教えてくれ」 スピンクス「人間だ。生まれた時ははいはいしている。老人になると杖をつく」 旅人「それ…

凡庸でないと嫌われる

綿野恵太君の新刊『みんな政治でバカになる』をざっと読んだ。綿野君と私は、天皇制反対で九条改憲論という立場をともにしているが、綿野君は前者は前著で明らかにしたが後者は著書ではまったく言わない。この立場は嫌われるからで、孤立するからである。私…

「走れメロス」と「トリビアの泉」

ようつべで「トリビアの泉」を観ていると、2004年の放送で、太宰治の「走れメロス」は、太宰自身が借金を返すために走り回ったことを小説にしたものだと言っていたが、これは「ガセビア」である。 www.youtube.com 檀一雄の『小説太宰治』に書いてあるという…

「ウルトラマン」ダダの回のグダグダ

こないだ「ウルトラマン」のダダの回「人間標本5・6」を観たら、山田正弘のシナリオがグダグダだった。だいたい題名の「5・6」が何だか分からない。冒頭は峠での連発するバス事故なんだが、これをダダが仕掛けて、バスの乗客を人間標本にしているという…

著書訂正

「谷崎潤一郎伝」(文庫) p、20「戦前、こんな実名をあげたら軍人誣告罪に問われてしまう」→ 「 谷崎潤一郎伝-堂々たる人生 (中公文庫 こ 43-3) 作者:小谷野 敦 中央公論新社 Amazon 軍人誣告罪」などというものは存在しない。のち石坂洋次郎について気づ…

「異人たちとの夏」の私小説性

異人たちとの夏 風間杜夫 Amazon あの頃映画 「異人たちとの夏」 [DVD] 風間杜夫 Amazon 異人たちとの夏 (新潮文庫) 作者:太一, 山田 新潮社 Amazon 映画「異人たちとの夏」を久しぶりに観たがやはり面白かった。これはカナダから帰国した92年ころにビデオで…

書評被害録

日本では書評というのはたいてい褒めるものだが、私はわりあい悪意で書かれたことや、妙に事実と違うことを書かれたことが多い。しかるべく権力者に阿ねらないのがいけないのか、内容が気に入らない人が多いのか、両方だろう。

手塚治虫とサントリー学芸賞

手塚治虫=ストーリーマンガの起源 (講談社選書メチエ) 作者:竹内 一郎 講談社 Amazon テヅカ・イズ・デッド ひらかれたマンガ表現論へ (星海社新書) 作者:伊藤 剛 星海社 Amazon 2006年に竹内一郎(さいふうめい)が『手塚治虫ーストーリーマンガの起源』で…

「男たちの旅路」と「宇宙戦艦ヤマト」

「男たちの旅路」のスペシャル「戦場は遥かになりて」(1982年2月)は、ヤクザもんとの戦いで死んでしまった若い警備士の婚約者の妊娠している真行寺君枝を鶴田浩二が若者の郷里の小笠原まで連れて行って父(ハナ肇)と反戦思想を語りあうもので、「かっこよ…

わかりやすすぎるピカソ

サバイビング・ピカソ【字幕版】 [VHS] ワーナー・ホーム・ビデオ Amazon ピカソの絵について「わからない」ということから書き始めている新書を見たが、ピカソの前衛的な絵は、むしろ分かりやすい。「あー、めちゃくちゃなように見えてこれで××を表現してる…

「殺陣師段平(たてしだんぺい)」の謎

「殺陣師段平」といえば、私にはある種の伝説としてのみ存在した新国劇の狂言である。大正年間、澤田正二郎が旗揚げした新国劇の殺陣師だった大阪の市川段平は、市川右団次門下にあって中村鴈治郎(初代)とわたりあったというのが自慢である。1982年に市川…

音楽には物語がある(33)お富さん 「中央公論」2021年8月号

一九五四年といえば昭和二十九年、「君の名は」と「ゴジラ」の年である。前年、テレビ放送は始まっていたが、一般家庭に普及するのはまだまだで、ラジオ放送で北村寿夫作の「新諸国物語」の一つ「笛吹童子」がヒットし、貸本マンガはその黎明期だった。子供…

「勝手にしやがれ」の思い出

勝手にしやがれ [Blu-ray] ジャン=ポール・ベルモンド Amazon 気狂いピエロ [Blu-ray] ジャン=ポール・ベルモンド Amazon 1987年の10月1日、私は比較文学の院生一年目だったが、有楽町スバル座でゴダールの「勝手にしやがれ」と「気狂いピエロ」二本立てをや…

腐った鯨と「ちりとてちん」

吉村昭の『北天の星』は、レザノフが長崎で日本との通商を断られたあと、自分はアメリカ大陸へ渡り、部下のフヴォストフとダヴィドフに、腹いせのため日本の北海を荒らすよう命じた際、択捉島でロシヤ人に連れ去られた中川五郎治を主人公にしている。のち五…

ある種の侮ってはいけなさ

自然と詩心の運動―ワーズワスとディラン・トマス 作者:宮川 清司 大阪大学出版会 Amazon 私が阪大へ行ったのは94年4月だが、宮川先生という50歳になったばかりの少し白髪の英語の先生がいた。阪大出身の英文学者であった。9月に、博士論文として提出する予定…

西洋彫刻と口なし

日本の巨大ヒーローは、アニメ・特撮を問わず口に、西洋彫刻型と口なし型があり、どちらとも違うウルトラマン型がある。西洋彫刻型というのは「勇者ライディーン」みたなもんだが、要するに人間の口をそのままデザインしたもので、最初は「ジャイアントロボ…

学問の流行

メディア・表象・イデオロギー―明治三十年代の文化研究 小沢書店 Amazon 1997年5月に、小森陽一, 紅野謙介, 高橋修 編『 メディア・表象・イデオロギー : 明治三十年代の文化研究 』(小沢書店)という日本近代文学の論文集が出て、話題になったことがある。…

ウルトラマンとマグマ大使

ウルトラマンの成立については、はじめベムラーという、日活のガッパみたいな造形の、人間の味方をする怪獣を考え、それからレッドマンというゴツゴツしたヒーローを考え、それからウルトラマンになったとされている。 しかし、ウルトラマンより早く放送が始…

間宮林蔵・探検家一代―海峡発見と北方民族 (中公新書ラクレ) 高橋大輔    アマゾンレビュー

そんなに変かね?星2つ 、2021/09/01間宮林蔵については私も一書を著しているのだがこの本の参考文献にはない。読んでいくと、例のシーボルト事件について、林蔵がシーボルトからの手紙を開封せず幕府に届けたことを、著者は「意外な行動」と言い、なぜそん…

乳母車・最後の女 石坂洋次郎傑作短編選 (講談社文芸文庫) アマゾンレビュー

軍人誣告罪などというものはない 星1つ 、2021/09/01 この一点は、作品よりも巻末年譜に対するものである。戦前の石坂が「若い人」で、不敬罪と軍人誣告罪で右翼から告訴されたと書いてあるが、私がくりかえし言って来たとおりこれは間違いで、右翼から出版…

文学とは何か――現代批評理論への招待(下) (岩波文庫) イーグルトン」アマゾンレビュー

イーグルトンはポストモダンを批判しているのだぞ星1つ 、2021/09/01この一点は、文庫版への訳者大橋洋一のあとがきに対するものである。大橋は、文学理論の正しさを言い、これを否定するものを保守派守旧派と罵っているが、中で「ジャック・ラカン、デリダ…