2020-08-01から1ヶ月間の記事一覧

世代論の当てにならなさについて

私は昔から世代論に懐疑的である。たとえば荒俣宏がプロレタリア文学について書いていることについて、私と同年の宮崎哲弥は、自分らの世代ならパンクだと思う、と書いたが、私はパンクとかロックには興味がない。まあこれは私の側が特殊なんだろうが、やは…

松阪青渓

今度出た千葉俊二先生の本に、菊原琴治検校を谷崎潤一郎に紹介した人として、兵庫県の文人・松阪青渓が登場する。孫に当る八木マリヨ様(環境芸術家)のご教示でその生没年を明らかにしたので以下、閲歴と主な著作を記す。 松阪青渓(1883年12月30日ー1945年3…

「山崎正和オーラルヒストリー」書評(週刊朝日)

七十歳を過ぎたような学者の知り合いには、私はことあるごとに、自伝を書いてくださいと言うことにしている。学者の自伝は最近好きでだいぶ読んだが、何といっても学問的にも、時代の雰囲気を知る史料としても面白い。とはいえ、自伝であれ伝記であれ、「ま…

音楽には物語がある(6)替え歌 

谷村新司の「昴」というのは有名な曲だろうが、私は十数年前まで、これの本当の歌詞を知らなかった。というのは、一九九○年に、春風亭柳昇が「カラオケ病院」という新作落語の中でこれの替え歌を歌ったのだけを知っていたのである。「カラオケ病院」は、はや…

「ナジャ」の謎

今回の芥川賞選評で松浦寿輝が岡本学「Our Age」を「アンドレ・ブルトン「ナジャ」の日本版を思わせる一女性の謎を、歳月を隔てて解き明かそうとする物語」と書いている。 「ナジャ」は、大学生のころ唐十郎などが言っていたので読みたいと思ったが、当時は…

「ロッキー」に感動する

私は、若いころ読んだり観たりした小説や映画を、あとになって改めて評価するということはまずないのだが、「ロッキー」を35年ぶりに観たら感動して不覚にも泣いてしまった。 貧困地区に住むロッキーの鬱屈を隠して生きる姿、夜にジョークを考えてペット屋に…

花咲くチェリー

子供のころテレビで観たドラマの記憶があった。家長らしい男と家庭内の紛擾劇だが、その男は鉄の棒を背中で曲げようとしていて、最後に妻が家を出ていくところで、あわてて、棒を曲げて見せる、と言って渾身の力で棒を曲げ、「曲がったぞ!」と叫んで倒れて…

吉行和子と河内桃子

私が中学一年の時、人形劇「真田十勇士」を観ていたら、脇にいた母が、夢影か何かの声を「あらっ、これ吉行和子じゃない?」と言う。私は毎日録音するくらい調べてみていたから「河内桃子だよ」と言ったが、母はエンドクレジットの「声の出演」まで見て、お…

シーモンキー

私が小学校四年生のころ、通信販売で「シーモンキー」というのを買った。小さな海老なのだが、プラスチックの円筒に水を入れて卵から孵す。成長してもごく小さいが、ポンプの代わりに毎日別の容器に中身を移して戻すことになっており、私はラーメン丼を使っ…

書評 木下昌輝『まむし三代記』 週刊読書人

「あとがき」を見ると、『小説トリッパー』に「蝮三代記」として千枚以上連載したものを破棄して、改めて書き下ろしたとあるから驚いた。連載のまま書籍化すると埋もれる、とあるが、おそらく連載は斎藤道三三代を史実に沿って描いたもので、長いこともあり…