2011-01-01から1ヶ月間の記事一覧

黒岩さんの『パンとペン』には、まだ疑問点がある。99p。 五月二十五日の日記には、鎌倉で療養中の美知子からの手紙を読み、「涙がこぼれる」とある。明治時代に男がこんなことを告白すれば、「女々しい」と非難を浴びても不思議ではなかった。 まず、堺は…

「彷彿」の使い方

東京新聞に、西村賢太『苦役列車』の、作家・浅尾大輔による書評が載っていた。http://blog.livedoor.jp/asaodai/archives/51908064.html その最後のほうに、記者会見に答える西村の「笑顔を見ていて、中上健次を彷彿させた」とあって、首をかしげた。「笑顔…

無意味な抗議活動

永山則夫が日本文藝家協会への入会を拒否された時、柄谷行人、中上健次、筒井康隆が抗議のため協会を退会した。私は当時、「抗議のため退会」ということに何の意味があるのかよく分からなかった。だって協会側としたら、うるさい奴がいなくなってせいせいす…

三浦直彦のこと

江藤淳の岳父である三浦直彦について、塩谷昌弘氏から論文「江藤淳(江頭淳夫)「長谷川潔論」と岳父・三浦直彦」の抜き刷りを送っていただく。『日本近代文学会北海道支部会報』13号、2010年5月である。これによると直彦は戦後、1951年から57年まで銀座サエ…

世間というもの

韓国の軍事独裁政権の朴正熙大統領が暗殺されたのは私が高校生の頃で、授業中に倫理社会の目良教師がそのことを伝え、私は隣席の左翼っぽい男と手をとりあって喜んだものだ。それより前に、朴夫人が射殺される事件があったが、その時、朴について「あの人も…

私小説について

ニコニコ動画のインタビューでも言ったのだが、日本で私小説というものへの反対論が根強いのは、実際にダメな私小説というのがあったからで、大正後期の『新潮』『中央公論』などに、温泉へ行って藝者をあげたとか、その手の安易な私小説がたくさん載ってい…

オフリミット

元前頭・大竜川の清見潟親方が初場所中に定年を迎えたので、竹縄親方の栃栄が清見潟になり、現役の春日錦が引退して竹縄になった。玉突き引退。 なおこの清見潟の株は、現役時代の北の湖が持っていて、引退の際、兄弟子の大竜川に貸していたので、大竜川はあ…

被害妄想の構造など

朝吹真理子「きことわ」は、当初入りこみにくく、途中までで放擲していたのだが、最後まで読むと、存外いい出来だった。貴子と永遠子が、七歳の年齢差があるように見えないという意見もあったが、その他「からがる」「年齢の差を差し置いてみて」など、おか…

『現代文学論争』の最後のほうで、私は笙野頼子をめぐる論争をまとめたのだが、刊行されて半月ほどして、笙野が筑摩書房の担当編集者宛に電話で文句を言ってきた、と聞いた。そのうち、事実誤認が百カ所あるとか、佐藤亜紀や小谷真理も文句を言ってきている…

福田と坪内に

『SPA!』の対談で、福田和也と坪内祐三が私の悪口を言い合っている。福田は、私が東大の紀要に「俺は東大を出て留学もしているのに、なぜ福田などが文藝評論家なのか」と書いた、載せる東大も東大だと思った、などと言っているが、そんな事実はない。思…

ある空想‐『明暗』の吉川夫人

(活字化のため削除)

芥川賞候補作です

母子寮前作者: 小谷野敦出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2010/12メディア: ハードカバー クリック: 121回この商品を含むブログ (25件) を見るhttp://www.bunshun.co.jp/tachiyomi/201012/t9784163298306.htm この小説が『文學界』に載るに当たっては枡野浩…

島田謹二は「ロシヤにおける広瀬武夫」だが、「ロシヤ」と書くと校閲がいちいちチェックする。ロシヤと書こうがシベリヤと書こうが著者の勝手だと思うのだが、みんなが同じ表記をしなければいけない、違う表記をする場合は説明しなければならないというのは…

秦恒平氏の直言

http://umi-no-hon.officeblue.jp/home.htm 2006年のもの* 四月十七日 つづき * 理事会で二つ三つ発言し、例によって物議をかもした。かもしただけで要するにうやむやに押し流された一つが、「会長の選任」を、いますこし手順的にキチンとしてはどうかとい…

私は江藤淳の身辺随筆を読んでいると息苦しくなる。概して言うと、既に敗戦後長い年月がたっているのに、江藤は自分の周囲だけを「戦前」にしておこうとしているからである。しかも海城学園の理事だったのだから、あの野蛮な学校にいた私としては怨恨すら感…

オタどんに教えられてコンビニで『SPA!』を立ち見。坪内祐三が『母子寮前』について「親父憎し」だけど、頑張って子供に部屋与えたじゃないかと言っている。もっともこれは、お父さんは頑張ってきたという話の流れにひょいと出ただけ。読んでるなんてあ…

地獄の観劇体験

昨日は「シベリア少女鉄道スピリッツ」という劇団(?)を観てきた。 王子小劇場と言う小さいところの自由席で、人気があるらしくキャンセル待ちの列ができていた。私が案内されたのは最前列。あとから詰め寄せてきたので、もう一杯。もうこれだけで、閉所恐…

呉智英さん!

呉智英さんの『マンガ狂につける薬 二天一流篇』に、渡辺京二の『逝きし世の面影』を扱ったところがあって、「小谷野敦によるとアカデミズムでは評価されていない」(大意)とあるのだが、それは違う。まともなアカデミズムでは黙殺されており、平川祐弘あた…

朝吹真理子、読売読書委員かあ。これはもう佐伯順子さん以上の華やかさ。でも大学院で周囲にいる連中は、嫉妬と、男の場合憧憬とが入り乱れてさぞかし苦しいだろうなあ。特に近世文学なんて地味な世界だし、林望先生が書誌学をやって斯道文庫に勤めたかった…

凍土の共和国

金元祚の『凍土の共和国ー北朝鮮幻滅紀行』(1984)という本がある。呉智英さんが『読書家の新技術』で勧めていたので、89年くらいに読んだのだろうか。まあ今となっては、北朝鮮に幻想を抱いている人なんかいないから、蒙を啓かれるなんてことはないし、私…

江頭隆の謎 

私は海城高校の出身なので「海原」という同窓会報が送られてくる。その2006年12月の分に、名誉学園長だった江頭豊の追悼記事が載っていた。ご存知チッソ社長にして小和田雅子の祖父、江藤淳の叔父である。書いているのは、豊の兄で古賀家へ養子に行った博の…

家名存続について

夫婦別姓論者の中核にいるのが、家名存続を願う一人娘とその親たちであることは既に明らかだが、彼らは奇妙な幻想にとらえられている。子供の姓がもし統一され、そしてそれが婚姻届提出の時点で決められるなら、夫婦別姓法は彼らにとって何の意味もない。だ…

丹羽文雄の位置 

丹羽文雄の『ひと我を非情の作家と呼ぶ』を読んだ。自伝的エッセイと言うべきものだろう。丹羽は四日市の浄土真宗の寺に生まれたが、父は入り婿であった。姉があったが、母は歌舞伎役者と駆落ちした。だがそれは、父と祖母とが密通していたからである。父は…

イタロ・カルヴィーノと現代小説

イタロ・カルヴィーノが死んだのは私が大学生の頃で、もちろん当時すでに『木のぼり男爵』などは出ていて、いずれ読もうと思ってはいたのだが、たまたま機会がなくて過ぎ、7、8年前に短篇集を読んだら面白くなかったのでそのままになっていた。 それを今回…

安宅夏夫氏よりいくつかの文献を送っていただく。 「文壇史家 川西政明への疑問と不信」『人物研究』26号、2010 -室生犀星の親についての考証について 「夏目漱石と堺利彦」『群系』26号、2010年冬 -黒岩比佐子さんに触れて(オタどん、チェック) なおこの…