2009-09-01から1ヶ月間の記事一覧

告白の代償(最終回)

私の妻も、吉野と交渉する過程で、 「やばいこと言ってるのは間違いないんだから」 と言ったことがあるが、それはまさに「やばいこと」であり、思っていても言わない方が身のためという、そういう認識でしかない。偽善者ばかりなのである。その後、五十歳前…

告白の代償(6)

二日ほどたって、研究室へ進藤が訪ねて来て、弱った、という話である。私の反論は伊藤悟にも送ったと言い、メーリングリストをプリントアウトしたものを見せてくれたが、一方で「小谷野さんの弁明は友人の片田さん宛になっているから、甘えているところもあ…

告白の代償(5)

私は、追い詰められた気分になった。そして、遂に「あれ」を持ち出そうと考えたのである。自分にも同性愛者の友人がいる、ということを言って何らかの防御にしようとしたのである。 九〇年代、米国あたりの、いわゆる「現代批評」系の学術会議では、こういう…

告白の代償(4)

そこは大きなホールで、私は旧知の女性詩人と、その少し前からメールのやりとりをしていた久留米大学の四十くらいの助教授の片田さんとに会い、はじめそこに坐って彼女らと話していたが、司会者に呼ばれて壇上へ上がった。向って左側に永田、藤木、いちばん…

告白の代償(3)

それから三年の月日が流れ、私も三冊目の本でようやく浮かび上がることができたが、湯沢夏生とは、何となく疎遠になっていた。夏生は「フェミニスト」だったし、私は次第に、非学問的でプロパガンダめいたフェミニズムに対して批判的になっていたから、避け…

告白の代償(2)

微妙な緊張感の中、テーブルの向い側に坐った湯沢夏生は、鞄から数枚の写真を取り出した。そこにはいずれも、二人か三人の女性が写っていた。夏生自身はいなかったし、知った顔はなかった。 これは? という風にそれを見ている私に夏生は、 「はい、この中で…

告白の代償(1)

それが大阪のどの辺だったかは覚えていないが、恐らく梅田からそう遠くはない場所だっただろう。十一月半ばの、夜六時を過ぎていたから、あたりは暗く、街灯もあまりなく、人通りも次第に少なくなっていった。 私をどこかへ連れて行こうとしている湯沢夏生(…

庄野潤三死去

ほらね、訃報は、 臼井儀人‐まだ若いのに 庄野潤三‐まだ生きていたのか の二種類しかないのだよ。(なお庄野に対して悪意はない) 庄野の『サヴォイ・オペラ』って、肝心の「ミカド」にたどり着く前に中断して、そのまま本にしちゃったすごいもので、「ミカ…

今は昔、男ありけり

まとめ1993年 吉澤夏子が『フェミニズムの困難』を刊行。当時38歳。ラディカル・フェミニズムには未来がない、というような批判で、フェミニストの間で評判が悪かったが、男たちには受けた。 1997年3月、同『女であることの希望』を刊行。アンドレア・ドウォ…

テレビに出ているつもり

臼井儀人らしい遺体が見つかったというニュースで、ミクシィのコミュを見たら「亡くなった方には申し訳ないけど臼井さんじゃありませんように」などという書き込みが散見されて、そんなことまで気にするかなあ、と思っていて、はっと気づいたのだ。 こいつら…

昨日判決文が届いた。削除請求すら認められない全面敗訴である。 しかし驚くべきしっちゃかめっちゃかな判決文である。いったい、ミクシィのハンドルネームを変えた理由を説明しなければならないのだろうか。いわんや、筆名として「とん」にした理由などこの…

不適切な関係 

大澤真幸、女子学生との不適切な関係だったのか…。しかし、既婚者が初対面の女子院生と研究室でセックスするくらいでは懲戒処分にはならないらしいから、妊娠させたとしか思えないね。 先に触れた諸坂成利の『虎の書跡』のあとがきは実に笑える。本人は何か…

SFと私小説

古い記録を見ていて、大学一年の頃、ブライアン・オールディスの『手で育てられた少年』というのを読んだことを思い出した。この題名は要するにオナニーのことで、しかし別に面白くはなかった。確か『幻想文学』で書評されていたので読んだのだろう。 SFと…

小林よしのり氏に答える(2)

(活字化のため削除) - 高井戸図書館のすぐ裏手に、松本清張邸があるのを発見した。いやあ、この家、欲しいなあ、と思った。まあ清張だって50くらいから売れっ子作家になったわけだし、可能性ゼロとは言えないぞ…などと。何といっても、書庫が欲しい。もう…

坂さんはいずこに

私は大学に入った当座は、月三万円くらいの小遣いをもらい、自宅から大学に通っていた。しかし、同じクラスの、当時好きだった女の子が、早くに父親を亡くして、姉とともに看護婦の母親に育てられ、あちこちから奨学金を貰って大学へ来ていると知った(なお…

「役不足」両用説

水上勉『飢餓海峡』(1963)を読んでいたら、「役不足」の誤用を見つけた。新潮文庫版下巻126pで「力不足」の意味で使われている。 (活字化のため削除) - 『ガラスの仮面』の月影千草は、山本安英がモデルだと言われる。つまり「紅天女」は「夕鶴」である…

twitterをやめたのである

栗原さんに勧められて始めたのだが、どうもその…愚痴の言い合いみたいになってしまい、うざくなってやめた。栗原さんはなんだか忙しそうで経済の話とかしているし。私は経済というのはどうしてもちゃんと勉強する気にならない。 伊藤整・瀬沼茂樹の『日本文…

御用と御急ぎでない方は

自費出版といえど、掘り出しものがあるかもしれない。そう思って入手したのが、「×葉×子」の「彼は十二歳年下」という本であるが、宣伝文から分かるとおり著者は既に一冊、有名な出版社から本を出している。そして今回のは、暴力をふるう夫との結婚から離婚…

あとさき、など

私は時どき、あとさきを間違えられるが、『バカのための読書術』が、『まれに見るバカ』のあとだと香山リカに書かれたり、果ては『バカの壁』に便乗したなどと書かれたりする。私のほうが先であって、それに先行するのは呉智英さんの『バカにつける薬』くら…

小林よしのり氏に答える

長谷川三千子先生から、小冊子『野上耀三・野上三枝子生い立ちの記』をお送りいただいた。私はこれで、三枝子の父市河三喜の二人の男児がいずれも早世しているのを知った。次男・三愛は幼くして病で、長男・三栄は、1943年、海軍機関学校の英語教師として赴…

売れるということ

なんで河出書房を集英社だと思い込んだのであろう。考えてみたら集英社は「ギャラリー」である。以前にも、河出書房のものを講談社と勘違いして手紙を出したことがある。どうやら私には、河出書房はいい企画しかしない、良心的な出版社だという思い込みがあ…

ここにも私小説蔑視

http://sankei.jp.msn.com/culture/books/090906/bks0909061310008-n1.htm 中野恵津子の新訳は古沢安二郎の『アメリカの渡り鳥』よりいい訳とはいえない。古沢訳は古いことは古いが、独特のリズムがある。それにレストランの名前を「コーナー・カップボード…

誰に会ったのだ久米正雄

(活字化のため削除) - 自由党総裁になったのに首相になれなかったのが緒方竹虎。あの時は鳩山一郎の民主党が政権をとっていた。その後合併して自由民主党、鳩山が総裁となった。む〜ん。 - 石坂洋次郎が、うら夫人が死んだあと、「灰色の夫婦生活」と書い…

教えてちょ!(解決済)

中学一年の時、遠足に行ったがこれがひどかった。バスで行ったのだが悪路のせいかバスのせいか、酔う者続出、遂にバスガイドさんまで酔って、あちこちでげえげえ始まった。私の隣にいた友人もビニール袋に吐いていたので眼をつぶって見ないようにした。 その…

松岡正剛が加藤百合さんの本を取り上げている。 http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1218.html しかし実はこの後、田中修司という人が西村伊作について博士論文を東大工学研究科に提出して加藤さんがちょっとショックを受けたということがあった。もちろ…

正岡子規の「差別」

正岡子規の『墨汁一滴』には、明白な被差別民に対する差別的な句が載せられている。 「鶴の巣や場所もあらうに穢多の家」 という。 青空文庫では、 http://www.aozora.gr.jp/cards/000305/card1897.html 「この作品には、今日からみれば、不適切と受け取られ…

ミラーマン対シルバー仮面

最近、『シルバー仮面』のDVDを観ている。私の世代の男子の多くは、ミラーマンとシルバー仮面という、日曜七時という同じ時間帯に放送されたうち、『ミラーマン』を選んだだろう。1971年1月に『宇宙猿人ゴリ』が始まって以来の第二次怪獣ブームは、一年を…

毛利輝元問題

ああ、中尾彬の毛利輝元がいらいらする。何がって年齢である。 毛利輝元は元就の孫である。従って『毛利元就』の時は元服の際の少年として、少年時代の元就と同じ森田剛が演じたが、それ以外の輝元は、たいてい関ヶ原の戦い前後に、西軍の事実上の総帥として…