フランス・ドゥ・ヴァール「ママ、最後の抱擁」のアマゾンレビュー

2021年1月6日に日本でレビュー済み

 
動物行動学の啓蒙書であり、最新の知見であって、かつてのヴィトゲンシュタインの「ライオンがしゃべっても何を言っているのか分からないだろう」という、人間と動物がまったく違うという考えはほぼ完全に否定された。動物には情動があり、交尾もまた単なる繁殖のためではなく、楽しみを含んでいる。「人間は本能が壊れた動物」という岸田秀の言葉も否定された。動物はそれほど本能だけで動いているわけではなく、笑い、悲しみ、親しみを感じるのである。副題は誤訳めいていて、実際は「動物の感情、およびそれが人間が何であるかを伝える」というもので、人間は動物の延長上にあるということである。マウントをとるといった言葉が人間に使われるのは実に正しいのである。
 267pでインディラ・ガンディーなど女性指導者が列挙されているところで「国家元首」と訳されているが、これらは首相であって国家元首ではない。訳者が間違えたとも思えないので、原著者の誤りだろうか。