呉智英さんと私(3)

呉智英さんは漫画評論家でもあるから、呉さんがあげた、勧めた漫画は割と読んだ。しかし、途中で、まったく趣味が合わないことが分かった。私だって呉智英以前に漫画は読んでいたが、私の好きな漫画に呉智英はまったく興味を持っていなかったようである。

 呉さんが好きなのは水木しげる白土三平谷岡ヤスジ楳図かずおであろうか。水木は好きな人も多いが私は「ゲゲゲの女房」は好きだが水木の漫画は全然ダメであった。「劇画ヒトラー」でさえダメであった。白土は「サスケ」は好きだったが、呉の影響で読み始めた「カムイ伝」は、小学館文庫三巻までで挫折した。のち「カムイ外伝」「忍者武芸帳」は読んだが、好きではない。楳図かずおも「わたしは真悟」を我慢して読んだが全然ダメで売ってしまった。

 私が好きだったのは、「のらくろ」「デビルマン」、「サイボーグ009」「キャンディ💛キャンディ」にカゴ直利、吾妻ひでおであろうか。あとは少女漫画もちょっとは好きなのだが呉さんは少女漫画・女性マンガにまったく関心がない。そして「大人漫画」が好きなのだが、これが私には全然ダメであった。夏目房之介と「復活!大人マンガ」という共著を出しているが、少し読んでみて全然ダメ。

 新しいほうでも、「ドラゴンヘッド」とか「宮本から君へ」とか男くさくて汗くさい感じのが多いのだ、呉さんがあげるのは。とにかくフェミニンな趣味というのが全然ない。「赤毛のアン」にとんちんかんなことを言うのも納得する。最後に、小林まこと長谷川伸の戯曲を漫画化したのも愛好していたが、これがまた私には全然ダメだった。「一本刀土俵入」とか、やくざになっちゃダメだろうお前! と思うのである。もう、あわないことあわないこと。あわなすぎて笑ってしまうくらいである。

小谷野敦