アニー・エルノーの「私小説」

フランスの女性作家アニー・エルノーノーベル賞に擬せられているらしい。15年ほど前、「あっちゃん・コム」という出会い系で結婚相手を探していたころ、アニー・エルノーが好きだという女性がいて、実はアニー・エルノーを知らなかったのだが、その相手には何やら好感を抱いた。結局一度も会わずじまいだったが、エルノーの本を二冊買った。しかるに何だか通俗的な感じがして手放してしまった。

 今回『ある女』という死んだ母親のことを書いた私小説を図書館で借りて読んだ。翻訳は堀茂樹だが、そのあとがきに、最初に日本で訳された『シンプルな情熱』の評判が書いてあった。『シンプルな情熱』は、すでに作家として知られ、50近くなったエルノー、子供もいるが離婚していて、それが十歳ほど年下の妻のある男と恋愛をした経験を描いたもので、フランスでベストセラーになったという。デュラスの『愛人』が日本で刊行されたのは85年で、『シンプルな情熱』は93年に出た。小林信彦盛田隆二藤堂志津子山田詠美が絶賛したという。三枝和子も褒めたが、佐藤亜紀だけが批判したという。フランスでは、これを通俗的だとして批判したのは中年の男性書評家が多く、女性書評家には受けが良かったという。

 堀茂樹佐藤亜紀に反論していて、これに対して佐藤が何か言ったのかどうかは知らないが、私はむしろ佐藤亜紀に同意する。ということはフランスの男性書評家と同意見だというに近い。

 私は『愛人』にしてからが、なんであんなに受けたのか分からないが、フランスにおいては、恋愛が神聖化されすぎるのである。堀茂樹は、エルノーは男と別れても女友だちに泣きながら電話したりしない、と言うのだが、私はむしろそういう「狂乱」の話のほうが好きであり真実であると思うのであった。