「四谷怪談」と呉智英

鶴谷南北の「東海道四谷怪談」というのは、私は別に好きな芝居ではないが人気がある。しかしこれ、全共闘世代の左翼に人気があったようで、左翼だった広末保も、岩波新書で「四谷怪談ー悪意と笑い」を書いている。

 初演の際に、「忠臣蔵」の四段目までを演じ、続けてこれを上演したとされ、悪人の民谷伊右衛門は塩谷浪人ということになっている。つまり、体制道徳にのっとった「忠臣蔵」を転覆させる反体制劇として左翼が持ち上げ、今日に至っているということだろう。

 ところが、「封建主義者」のはずの呉智英も、「四谷怪談」を評価していたらしい。自分で書いたのは見たことがないが、初期の「ゴーマニズム宣言」で、呉が登場して、「「ゴー宣」は現代の「四谷怪談」だーっ! 閉塞した時代に風穴をあける」とか言っていたからで、このへんで呉の「根が左翼」なところが暴露されているとは、小林よしのりも知らずに書いたのだろう。橋本治も同世代なので、「四谷怪談」を論じていたことがある。