「ナジャ」の謎

今回の芥川賞選評で松浦寿輝岡本学「Our Age」を「アンドレ・ブルトン「ナジャ」の日本版を思わせる一女性の謎を、歳月を隔てて解き明かそうとする物語」と書いている。

 「ナジャ」は、大学生のころ唐十郎などが言っていたので読みたいと思ったが、当時は文庫とか廉価版がなく、86年ころになって、古書店で買った『アンドレ・ブルトン集成』(人文書院)に載っている巌谷国士の訳で読んだが、まったくわけが分からない小説で、そりゃシュールレアリスムなんだから当然ともいえるが、これを、女を追い求めるとか謎を解き明かそうとするとか、まとめるためにはよほど綿密な読解が必要であろう。松浦が言うのだから間違ってはいないだろうが、何だかロマンティックなものを予想していた私ががっかりしたのは事実である。

小谷野敦