「パッセンジャー」(モルテン・ ティルドゥム)中央公論2018年9月

 特撮ドラマ「シルバー仮面」の最終回が、アンドロメダ星雲からやってきて死んでしまった女の赤ん坊を帰すため、春日兄弟が光子ロケットで往復六十年かけてアンドロメダへ行くために出発するという話だった。一九七二年の放送だから、帰ってくるのは二〇三二年でまだ先のことだ。しかし春日兄弟は六十年も生きていられないので、甥の男の子と、岸田森の娘の二人の子供を同乗させる。つまり帰還できるのはぎりぎりこの二人ないしその子供ということか、と小学生の私は興奮したものだ。
 「パッセンジャー」は未来SF映画で、百二十年かけて他の星へ移住する宇宙ロケットの中で、多くの人間が冬眠している。その中でふと目覚めた男ジム(クリス・プラット)は、自分が原因不明の機械の不調のために目ざめ、まだ出航して三十年しかたっていないことを知る。冬眠状態に戻るすべも分からない。このままでは、孤独に宇宙船の中で年老い、死んでいくことになる。地球との連絡はとれない。恐怖に襲われたジムは、眠る乗客の中から一人の美しい女オーロラ(ジェニファー・ローレンス)を選びだし、人為的にその眠りを覚ましてしまう。
 ほかに話し相手といえば、バーにいるロボットのバーテンダーだけだが、もう一人、ロケット管理をしている者が目覚め、宇宙船の不具合を三人で修正するというアクションシーンがあるが、残る一人は死んでしまい、男女がまた残される。ロボットのバーテンダーが勘違いから口を滑らせたため、ジムが意図的に自分を目覚めさせたと知ったオーロラは怒り狂い、二人の関係は険悪になる・・・。
 ロマンティックな娯楽SF映画で、いいと思うが、ヒロインのジェニファー・ローレンスが、美人に見えるけれど、怒った時の顔があまり美しくない。ちょっと破調の美人なのである。しかしそれもまたこのロマンティックSFの微妙な隠し味めいていてよかろうと思う。とはいえ、科学が進歩しているわりに妙な不具合が生じるものだ、とも思わないでもない。