「ミスト」(フランク・ダラボン)2018年3月

 スティーヴン・キングという作家は、日本ではむしろ「キャリー」や「シャ
イニング」などのホラー映画の原作者として知られ始めたと記憶する。
 私がキングの原作で読んだことがあるのは、よりによって凡作の『ファイ
アスターター』(映画邦題は『炎の少女チャーリー』)しかない。その昔、
角川映画が「読んでから観るか、観てから読むか」という宣伝文句を使った
が、キング原作の映画を観ても、あまり原作を読もうという気には私はなら
ない。日本の作家では山崎豊子が私にはそういう作家で、映画やドラマを観
たあとで原作にとりかかっても、まあだいたい同じだな、というので読み通
すことはない。キューブリック監督の「シャイニング」は、その藝術性で評
価が高いが、原作を変えているため、キングとそのファンには不評で、キン
グは自ら監修してテレビドラマに作り直したが、妙に平凡な幽霊ものになっ
てしまった(ファンは支持している)。
 一九七○年代から、映画や小説で「ホラー」が流行するが、古典的な「怪
談」と区別して「モダンホラー」とも言われる。映画では「スプラッタ」な
どといって、電動ノコギリで人を殺しまくる血しぶき映画もはやった。しか
しホラーは一過性の流行ではなく、ジャンルとして定着しつつあり、「角川
ホラー文庫」などのレーベルもできている。戦争が先進国を戦場としては起
こらなくなったためででもあろうか。
 「ミスト」はキングの中編が原作だが、キングの郷里のメイン州あたりで
もあろうか、一つの町が深い霧に覆われ、その中からエイリアン型の怪物が
出現するという話だ。これは、バッドエンドであと味が悪いということで観
てみたが、普通に娯楽映画として面白かった。存外この「普通に面白い」と
いうのは、小説でも映画でも難しいものである。なるほどこの映画はこのエ
ンディングがミソである。とはいえこの文章を書くため、キング監修の「シ
ャイニング」を途中まで観て、やはりキングとのつきあいは私の場合映画ど
まりにしておいたほうがいいと思ったのであった。