「ザナドゥ」(一九八○)ロバート・グリーンウォルド 中央公論2017年11月

 「アイドル歌手」とは言うが、「アイドル俳優」とか「アイドル女優」と
はあまり言わない。アイドル歌手は、日本特有の、一九七○年代から生まれ
たもので、若い女でかわいらしく、歌唱力は二の次にして男たちに人気があ
るというそういうものだろう。韓国にも最近は日本の模倣で少女アイドル歌
手が現れているらしいが、西洋にはまずいない。『オーケストラの少女』の
ディアナ・ダービンなどは、そういう意味で、日本で特に人気があったとい
えるかもしれない。
 しかしオリヴィア・ニュートン・ジョンは、西洋(米国)では珍しい、容
姿こみで人気のあった「アイドル歌手」ではあるまいか。そのニュートン・ジ
ョンを主演にして撮ったのが、音楽映画「ザナドゥ」である。「ザナドゥ
という言葉は、コルリッジの詩「クブラ・カーン」からとられたもので、ク
ブラ・カーンとは日本でいう元の皇帝フビライ汗であり、ザナドゥはその都
上都を「Xian zu」と書いたのがXanaduに変化して英語風に読んだものだ。こ
れはロマン主義を象徴する名前になった。
 映画は、老人(ジーン・ケリー)と若者のソニー(マイケル・ベック)が、
謎の美しい娘と出会うところから始まる。娘はソニーの前にちらちら姿を現
し、不思議な現象が起こる。娘はついに、自分は藝術の女神ミューズの一人
キーラで、父はゼウスだと驚くべきことを言う。ダニーは建築で成功をおさ
め、クラブザナドゥという音楽の殿堂を作るが、キーラを好きになっているケ
リー。しかしキーラは神の世界に帰らなければならない。そこで「ザナドゥ
という歌を歌うキーラのミュージカルシーンが展開する。かなり荒唐無稽な
映画である。
 ところでオリヴィア・ニュートン・ジョンは一九四八年生まれで、人気が
絶頂だったのは一九七○年代、二十台のころで、この映画の時はすでに三十
二歳になっている。アイドル映画を撮るのにもうアイドルとはいえない年齢
になってから、というのが米国流か。