「いとこのビニー」(1992)中央公論2015年11月

 米国の州の名前を聞いても、どこだか分かるのと分からないのとがある。
アラバマというのは、『アラバマ物語』などという映画もあるのに、私は知
らずにいた。ジョージア州の西隣、つまり南部である。
 そのアラバマを、ビルとスタンという二人の軽薄そうな若者が自動車で走
っていて、道端のコンビニで買い物をする。片方がツナ缶をポケットに入れ
たまま支払いを忘れ、気づいて困っていると警察車が追って来る。二人はツ
ナ缶窃盗だと思っていたが、実はそのコンビニで二人組の強盗が入って店主
が殺されていたのだ。
 ビルの従兄のヴィニー・ガンビーニ(ジョー・ペシ)という男がニューヨ
ークで弁護士をしているというので呼ぶ。ヴィニーは婚約者のモナ・リサ(
マリサ・トメイ)を連れてやってくる。ところがヴィニーは法廷に立ったこ
とがなく、法律の基本的なことすら法律書を読んだリサから教えてもらう始
末。アメリカでは州ごとに法律が違うのだが、それにしてもここでのヴィニ
ーは頼りない。
 したがって裁判のほうも、判事・検事ともに厳しく二人の若者を追及して
いき、ヴィニーは手も足も出ない。はじめは観客も、偶然ほぼ同時刻に二人
のよく似た若者が犯行に及んだのか、と想像するくらいで、真相は知らされ
ずにいる。陪審員が二列に並んでいる中に、美人の黒人女性がいるのが南部
ならではである。
 この映画は前半だけ観ていると、何ともだらしない新米弁護士の、しまり
のない裁判ばなしでしかない。コメディ映画ということになっているが、そ
れほど笑えるわけではない。だが次第にヴィニーが盛り返し、最後にけっこ
う鮮やかな逆転に至るのだが、ここで鍵を握ったのがリサである。
 リサの意外な能力発揮で裁判は勝利に終わる。ここは観た時の楽しみとし
て詳しくは書かずにおくが、リサが最後に証人席で両手をまっすぐ伸ばす仕
草をする、そこがいい。マリサ・トメイはこれでアカデミー助演女優賞を受
賞している。観て損はない映画だと思う。