「ハウスメイド」(イム・サンス)中央公論2015年9月

 私はどうもあの「韓流ドラマ」というのが好きではない。日本でもビデオ撮りのドラマは、昔はぎらぎらした色調だったが、最近では抑えて映画に近い色あいを出せるようになった。しかし韓国のドラマは今でもぎらぎらで、ただ少しずつ直ってきてはいるようだ。
 しかし、韓国の女優の美しさはまことに特筆すべきものがあり、映画のほ
うはいいのがいろいろ出てきている。私が韓国映画のすごさを知ったのはキ
ム・ギドクによってだが、そのギドクも、しばらく精彩を欠いている。まだ
観ていない「メビウス」はいかに。
 ほかに、『猟奇的な彼女』や『イルマーレ』のチョン・ジヒョンもかわい
いし、出てくる女優がみな美人なので把握に困るような映画もある。しかし
、韓国人名をカタカナ表記すると、どうにも覚えづらくて困る。これは韓国
の政策の問題でもあるが、漢字は復活させてほしいと思う。
 しかし、私は「美人一歩手前」といった顔が好きで、その伝で言うと、チ
ョン・ドヨンがいいのである。ドヨンは、『シークレット・サンシャイン
で知られるが、一歩間違うとそのへんにいるおばさんに見えそうで、しかし
不思議な色気のある女優である。
 『ハウスメイド』は、一九六〇年の韓国映画『下女』のリメイクである。
これはイ・ウンシム主演で、キム・ギヨン(金綺泳)監督である。紡織工
場の音楽教師をしている男が、下女と関係をもってしまい、最後は二人で毒
を飲んで心中するという話で、この映画は西洋の映画監督にも影響を与えた
という。
 『ハウスメイド』も、原題は『下女』だが、忌避される言葉なので日本で
はこの題になっている。これは富裕な邸に下女として雇われた女が、主人に
誘惑されて関係をもってしまい妊娠するが、そのことを知った正妻が、残酷
な方法で下女に報復し、遂に下女が命を捨てて激しい反撃に出るという話で
ある。『下女』のイ・ウンシムもいいが、チョン・ドヨンはまさにうって
つけの配役で、エロティック・サスペンスとして優れた出来である。