「泳ぐひと」(フランク・ペリー)中央公論2015年4月

 バート・ランカスターは、奇妙な俳優である。もとはカウボーイなどを演
じるアクション俳優かと思ったら、演じる役は多彩で、ヴィスコンティ
『家族の肖像』『山猫』とか、『エルマー・ガントリー』とかが印象に残る。
 そのランカスターが主演して、それなりの評価を得たのが、ジョン・チー
ヴァーの短編をフランク・ペリーが映像化した『泳ぐひと』である。これは
まことに珍妙な作品で、アメリカの高級住宅街らしい、しかし森の中の屋敷
の屋外パーティに出ていたランカスターは、泳いで家に帰ろう、と思いつく。
 そのあたりの金持ちの家にはたいていプールがあったからで、まずプール
でひと泳ぎしてから、水泳パンツ一枚の姿で歩き出すのである。
 だいたい森の中に中流階級の家が点在しており、ランカスターはそれぞれ
の家のプールでひと泳ぎし、途中で川を泳ぎ渉ったりするが、道路もあって
、そこを水泳パンツ姿で渡っていくから、次第に観客は奇妙な気分になって
いく。
 きわめつけは、ヌーディストの老人夫妻が住んでいる家で、ここでひと泳
ぎしたあと、テラスで日光浴でもしているらしい全裸の夫妻のところへ、ラ
ンカスターがあいさつに行き、相手が全裸なのに水泳パンツを穿いているの
は悪いと思ったランカスターは自分もパンツを脱いで、くるりと後ろを向い
て歩き出すと、全裸なのである。
 どうも不気味な雰囲気の漂う映画で、結末ではこの男がやはり頭がおかし
かったことが示されるのだが、私はこれの原作短編を英語で読んで、どこか
に翻訳があるだろうと思って探したのだが、著作権上の問題でもあるのか、
見つからなかった。ランカスターの映画としては、珍品で面白いと思うから
、未見の方はぜひ一度。