カラミティ・ジェーン 中央公論2015年3月

 カラミティ・ジェーンは、西部開拓時代に実在した女ガンマンである。と
いっても美しいわけではない。それを、ドリス・デイが演じて、楽しいミュ
ージカル映画にしたのが、これ。
 実のところ、私はドリス・デイには何の興味もなかった。ヒッチコック
『知りすぎた男』に出て、「ケ・セラ・セラ」を歌うのは前に見ていたが、
別にさほど美人でもないし、背が高い。私は背が高い女が苦手なのである。
 ところが『カラミティ・ジェーン』は、ドリス・デイの魅力満開である。
もともと歌手だから、ミュージカル仕立てで、コメディでもあるから、変な
顔もしたりするけれど、酒場で歌って、塩を撒きながらタップダンス、二階
へ引き上げられ、また下まで降りてきて、腹ばいになって男たちの手でぴた
りと止まるワンカットのシークエンスがすばらしい。
 物語はラブ・コメディで、ジェーンは伝説のガンマン・ワイルド・ビル(
ハワード・キール)に思いを寄せているが、シカゴから大スターを連れ帰っ
て見せると豪語し、間違えてその付き人のケティ(アリン・アン・マクレリ
ー)を連れてきてしまい、なぜか二人で小さな小屋に住まいを定める。もう
一人男が出てくるが、別に男のとりあいになるわけではなく、ほんわかした
雰囲気で、男っぽいはずのカラミティは男たちの人気者で、舞踏会の前にビ
ルに、「あたしが目あてなのは分かってるけど、ケティにも気をつかってあ
げて」とか、結構なことを言う。
 実に男っぽいジェーンが、女らしく変身するという話ではあるが、動きの
きびきびしたさまはみごと。いったいジェーンが魅力的だと男たちは思って
いるのかいないのか、曖昧なのもいい。
 さあこれを観てから私は今さらドリスが好きになって、クラーク・ゲーブ
ルと共演した『先生のお気に入り』なんてのも観たがこれがまたチャーミン
グな映画である。ドリス・デイは鼻がちょっと上を向いていて、それが美人
感を損なっているのかもしれないが、そういうところもまたいいのである。