凍雲篩雪

 あれは何だったんだろう、とあとになって思うことが、子供の頃の思い出にはよくある。
 その一つである。小学生の時、クラスでピクニックのようなものに行ったことを覚えている。一日がかりだったのかどうかは覚えていないが、弁当を持って行ったのは確かである。かといって、学校からさほど遠いところではなく、田圃の中の、祠のようなものがある場所だったと記憶している。
 引率の教師は、男だったから、四年生か五年生の時、なおこの二年で担任教師もクラスも変わっているから、五年生の時ではなかったかと思う。季節は春か。五月か六月ころだろう。
 行って何をしたのかはほとんど覚えていない。特に面白いことはなかった。ただ一つだけ鮮明に覚えているのは、弁当を食べたあとに起きた事件である。
 担任の教師が、突如、クラスの全員を一か所に集めた。怒っているらしい。木の根方を指しているが、どうやらそれは、弁当箱の中身をさかさまにしてそのまま出したものらしかった。ある種、気持ち悪かった。
 「なぜこんなことをするんだ」
 という調子で先生は怒っていた。誰がやったかはついに分からなかったが、私は、おそらくあまりお腹のすいていなかった女子生徒、ないしは気分の悪い女子生徒だろうと思った。
 単にそれだけのことである。しかし、そもそもあれはどこで、何のためにクラス総出のピクニックになど出たのか、多分当時も、教師が行くと言ったから行っただけで、理由はよく分かっていなかったと思う。
 学校から歩いて行ったのだから、地図を使えばいいのだが、ここはグーグル・ストリートビューを使ってみた。すると、学校からほど遠からぬ場所に「正一位稲荷大明神」というのがあった。見て、ああここだ! とは思わないが、あるいはこれではないか。
 そんなところへわざわざ弁当を持って出かける何の必要があったのか、分からないが、私にはその時の教師の怒りが、何に対しての怒りだかちょっと分からないところがあった。つまり、お母さんがせっかく作ってくれた弁当を捨てるとは何だ、という怒りのようには思えたが、何だか「神域を汚した」というような意味あいがあるように感じられたのである。
 もっとも、これが五年生の時だとすると、担任は日の丸や君が代を批判する日教組だったから、そういう可能性は低くなるが、何しろ一九七三年のことだから、どうだか分からない。