牛山ホテル

 岸田國士の「牛山ホテル」という戯曲を読んだが、実に読みにくく難儀した。というのは、半分くらいが泥深い熊本弁のセリフだからで、まるでフランス語で読んでいるようで、かつ何が起きているのか分からなかった。筋はだいたいこんなところである。ハヤカワ演劇文庫で読んだ。
https://kotobank.jp/word/%E7%89%9B%E5%B1%B1%E3%83%9B%E3%83%86%E3%83%AB-1148126
http://www.shinobu-review.jp/mt/archives/2011/1223233706.html
 岸田自身の解説も、最後の今村忠純の解説に引かれていて、これまでは戯曲のためにむりやり作りだしていたが戯曲らしい戯曲を書こうと思ったというから驚いた。
 戯曲には、大衆演劇は別として、三島の「鹿鳴館」のようなきっちりしたドラマがあるものと、岸田や久保田万太郎のように、ある微妙な状況を作りつつ、人物らに曖昧な言葉でその状況を暗示させて推移する、「純文学戯曲」とがあるが、これなどはその最たるものだろう。日本人がフランス植民地であるインドシナにいて、フランス人の妻と日本人の妾がいて、妻にピストルで撃たれて怪我をするとか、今の日本人には考えにくいし、かといって歴史劇としても読めない。大正から昭和初期の戯曲には、久米正雄の「牛乳屋の兄弟」とか久保栄の「火山灰地」のように、今ではとうてい鑑賞に堪えないものがある。
 主要人物である真壁のこんなセリフがある。
 「僕はね、あの女と結婚してもいいと思つてゐるんです。しかし、さうすると、あの女が可哀想ですよ。僕は、半年経たないうちに、あの女を捨ててしまうでせう」
 こんなセリフが出てくる演劇は、バカバカしくて観る気にもならない。