私が大学院生の頃、上海から陳生保という、50歳くらいの学者が博士号をとりに来ていた。いま調べて、当時60歳くらいに見えたなあと思う。「森鴎外漢詩」という題で論文を書いたのだが、審査員のうち古田島洋介氏が、いたるところに間違いがあると指摘し、五人の審査員の協議で、一人だけ博士号授与に反対したため全員一致にならず、ただし間違いは訂正することを条件に授与された。
 のち明治書院から同題で刊行されたが、『比較文学研究』に古田島さんが細かな間違いをあげつらう全否定に近い書評を書いた。聞いてみると、古田島さんは間違いをリストアップして陳氏に送ったのに、全部無視して刊行したのだという。世間にはこんな博士論文もある。