あずさ2号

 私は若いころ、鴻上尚史のエッセイを愛読していた。『鴻上夕日堂の逆上』(もちろん『村上朝日堂』のもじり)とかである。面白かったのと、鴻上はフェミニズムの影響を受けていて、恋愛についての深い洞察に満ちているように思えたからだ。だが、その結果としてストーカーみたいなことをしていたわけだからまあ役には立たなかった(つまり勘違い)だったわけで、いま読み返すとバブル期の雰囲気満々でこっ恥ずかしい。
 さて「狩人」の「あずさ2号」という歌謡曲がある(1977年)。いまだに「狩人」は兄弟で歌っているようだが、何しろ「あずさ2号」が唯一のヒット曲だから、リサイタルを開いても、聴衆はじっと「あずさ2号」の登場を待つのであろうか、ないしはファンだからほかの曲も知っているのか。
 だが、この歌の歌詞は、一番だけだと分かりにくい。鴻上は当時、これは「お見合い」の歌だ、と書いていた。恋人がいたのだが、女が「お見合い」をして結婚することになり、結婚相手と信州へ旅立つのだ、と言うのだ。私は先日まで、なるほど^と思っていた。
 しかし、二番の歌詞をよく聴くと、何のことはない、不倫の歌ではないか。「都会の隅であなたを待って、私は季節に取り残された」というのだから、東中野あたりに住む女が妻ある男と不倫して婚期を逃し、やっと結婚相手を見つけて信州へ旅立つという歌である。そんな不倫相手が「まぶしい私の青春でした」なんだから、結婚相手もいい面の皮である。