石原慎太郎の「ある失踪」

 石原慎太郎の「ある失踪」(『文學界』2015年5月)が川端文学賞の最終候補になっていたので読んでみた。これはある74歳の老女が、夫が死んだあとボケて失踪し、下田あたりで保護されて施設に二年くらいいて、それが「ミコモト」と言うので施設の男が探訪すると、それは神子元島というダイビングの場所で、
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 そこへ行くと、死んだ建築家の桑山健一郎という有名人がここでよくダイブしていたから、関係者じゃないかと言う。で読者はここで、老女は桑山の妻じゃないかと思うのだが(作中の人間はなぜかそう思わない)、実は桑山の仲間の香月というインテリアデザイナーの妻だったことが判明する、という話である。
 これは石原が、自分の死後のことを想像して書いたもので、石原文学的には重要な作品だろうが、あまりうまいとはやはり言えない。