司馬にも筆の誤り

 司馬遼太郎の初期短編「最後の船鉄砲」を読んでいたら、「顕如上人のような皺ばんだ老人をまもる戦さには情熱はもてなかったが」とあってわが目を疑った。これは別所長治の三木城での戦いに参加した雑賀市兵衛という多分架空の男が主人公だが、当時の本願寺顕如はまだ三十を少し出たあたりである。よく漫画で、老人の顕如を見ることはあるが、司馬が間違えるか。それとも当時はまだ顕如の年齢が分かっていなかったとか、あるのだろうか。
小谷野敦