黙殺という武器

 江藤淳が自殺した時、学生が「上野千鶴子が何て言うか」と言い、私が「何も言わないに決まってるだろう」と思ったことは『江藤淳大江健三郎』にも書いたし、それ以前にも書いた。
 それでもまだ、『江藤淳大江健三郎』について、大江がどう反応するか、などと書いている人がいるのを見ると、みんな純朴なんだなあ、と思う。何も言わないに決まっているだろう。社会的地位のある人には「黙殺」という最強の武器があるのだ。 
小谷野敦