先日の栗原裕一郎との芥川賞対談は、「読書人」にイベントスペースができたからそこで、という声から始まったのだが、私が場所を言うと、妻が、それは「らかぐ」のことじゃないのか、と言う。これは新潮社が自社近くに作ったホールで、もちろんそんなものではなく、読書人編集部の片隅を開けただけのものだった。
 で、芥川賞についての対談が終わってフロアに質問を求めると、倉本さおりが、『絶歌』についての石原千秋の栗原への批判について訊いたため、私との激論になってしまい、これが栗原が今回で降りると言うきっかけになったのは否めない。ただし栗原が「新人賞なんかみんななくしてお笑い芸人めざしゃいいんですよ」とかやさぐれていたので、私もまた潮時かなと思ってはいた。
 ところで栗原が『絶歌』を非難するのを、うんうんうなずいて聞いていたおばさんが、挙手して、「もし今十四歳の少年がいて、その親が、お前今人を殺して、三十歳くらいになって手記を書いたら大もうけできるよ、と言ったとしたら」などと言ったので、会場にいた人の多くは「?」となったと思うのだが、まあ世の中には不思議なことを想像する人がいるものだと思った。
小谷野敦