松原知生という西南学院大学教授の『数寄物考』というエッセイ集には、川端康成について、古美術を扱った作品は「現前性を欠いた空疎な文体で書かれている」として、『千羽鶴』がその最たるものだとしてあるのだが、「文体」の問題かどうかはともかく、『千羽鶴』は失敗作である。『雪国』は古美術と関係ないが、島村は幽霊のようで、だいたい川端の作品で現前性が欠けていないのは、「伊豆の踊子」や『山の音』といった私小説に多いので、だが川端に限らず、私小説やモデル小説以外の小説は「現前性を欠いた空疎」なものになりやすいのである。