ハーツォグ

 ソール・ベローは『ハーツォグ』でノーベル文学賞をとったとされる。これはベローの実体験に基づいた小説で、大学教授ハーツォグが妻を寝取られ、精神錯乱に陥りつつ、自身の過去を振り返るという体裁をとっている。ノーベル賞においても、私小説の類は強いのである。ベローの妻を寝取ったのはカナダの作家ジャック・ルドヴィクhttp://en.wikipedia.org/wiki/Jack_Ludwigである。
 ただこの小説が面白いかというと疑問である。だがその中で、ハーツォグが日本人女性のソノ・オグキと恋愛関係にあった、というところがある。ソノは富裕階級の娘で、第二次大戦中にフランスに留学し、フランス語はできたが英語ができず、ハーツォグとはフランス語で話して、英語を学ぼうとしなかったという。仮にも日本で高等教育を受けた女性が英語ができないとは考えにくいのだが、ソノの家は田舎に別荘があり、ハーツォグはその写真を見たことがあって、「東洋の田園風景ーーウサギ、牝鶏、仔豚の群れが遊んでいて、専用の熱い温泉に、彼女が浸っていた。彼女のために、マッサージにかよってくる村の盲人の写真もあった」(宇野利泰訳)というのだが、この様子だと、その「専用の温泉」は別荘の庭にでもある露天風呂らしい。そんなアホな、であって、「オグキ」という不自然な姓とあいまって、ここが虚構であることが分かるのである。これはハヤカワ文庫では下巻のはじめの方に出てくる。