谷崎の最初の妻との間の娘・鮎子は、谷崎の唯一の実子である。彼女は千代を譲られた佐藤春夫の甥の竹田龍児と結婚した。泉鏡花の媒酌である。龍児は慶大卒でヴェトナム史専攻、のち慶大教授になり、妻鮎子のあとを追うように同じ年に死んだから、愛妻家のように言われた。
 しかしこの中の書簡で谷崎は、龍児は〇〇ちゃんが言うように実に嫌なやつだが、まああの結婚は良かったろうと書いている。
 私も龍児というのは嫌なやつだろうと思っていた。あまり業績がないし、単著もないからである。
小谷野敦