『頭の悪い日本語』を読んだ、後期高齢者と称する人から手紙が来た。「小谷野敦殿」と宛名があり、「君は」と書いてあって、自分の息子と同年だとあり、何やら意味のよく分からないことが箇条書きで書いてあった。
 104で電話番号を調べて電話をかけた。名のるとなんだかびびっていて、いや、ちょっと、感想を、いや余計なことを、と言っていたから、疑問点をあげて質問し、答えた。呉智英加藤周一の件について、座談会なら文字起こしされているべきで、名誉にかかわるから書かずもがな、よく調べて書くようにと手紙にあったから、名誉にかかわるから書いたのであり、テレビでの対談は活字になっていないのである、これ以上何を調べるのか、と問うた。
 あと終戦記念日は八月十五日というのがわれわれ世代の(82歳だそうだ)実感で、と言っていたが、何も知らないらしいので教えてやった。手紙に、『バカのための読書術』という本があるようだがあまり人をバカ呼ばわりしないように、とあった。『頭の悪い日本語』は編集者が考えた題ですと言うと、「まあ『バカのための』も編集者が・…」と言いかけるから、「いえ、あれは私が考えました」と言い、読んだんですかと訊くと、読んでないと言うから、そういう時は読んでから言うものですと教えてやった。

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阿川弘之の『国を思えば腹が立つ』に、大江健三郎の酒場での暴行を描いた部分があるのだが、そこで大江の政治思想をも批判して、入江隆則が、マルクスサルトルの思想には恨みが根底にあるから信用できない、と書いたのを引用して、わが意を得たり、と書いているのだが、それを言ったら入江の親分であった江藤淳こそ、米国への恨み骨髄の人間だったではないか。

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