アリストファネスの『女の平和』という喜劇がある。原題は「リューシストラテ」で、戦争ばかりしている男たちに愛想を尽かした女たちが、セックス・ストライキをするという、平和主義者やフェミニストがいかにも喜びそうな作品だ。
 安部公房はこれについて、日本の翻訳にはないが、女たちは張形を使っているので、いざ男たちと和解しても満足しないんじゃないかという個所があると言っている(「現代の若いセックス」公房、羽仁進、大江健三郎倉橋由美子戸川昌子婦人公論』1964年5月、公房全集18)。
 日本の翻訳というのは高津春繁のだろうから、新しい翻訳である戸部順一のものを見てみたが、どうもそんなセリフは見当たらないのである。公房はもしかしたら上演を観て、オリジナルな入れごとがあったのを、原作にあると勘違いしたのかもしれない。