図書館の本からの窃盗

 山本文緒の新刊小説『なぎさ』は、確か「なぎさカフェ」の題で連載されていたような気がする。枡野さんが絶賛していたので読んでみたが、妻が漫画家というあたりに枡野さんは反応した、ということもあろうかと思う。
 だが、どうも違和感がある。現代の話らしいのだが、インターネットが出てこない。自分が勤めている企業がブラック企業じゃないかと言いつつ、検索してみることもない。読んだ本、観ているテレビ、映画などの話が出てこない。リアリズムで書かれているのにこれはおかしいんじゃないかと思うが、そういう小説は少なくない。
 だが、私の書く小説には、自然描写がほとんどない。正宗白鳥もそうだったらしいが、植物の名前とか、実は意識して入れようとしているのだが、努力しないと出てこない。だいたい男は動植物が苦手らしい。

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齋藤雅子の『悲しみの人魚の歌』は、『早稲田文学』に掲載された時に川端が読んで絶賛の手紙を著者に送り、次の芥川賞では、なぜ候補に入っていないのかと選評で触れた作品だが、単行本化もされず、斎藤没後、刊行された。これの巻頭には、折り込みで、川端からの手紙がそのまま印刷されて入っている。私は古書で買ったのだが、国会図書館へ行った人によると、この手紙がないという。それで私は近所の図書館で見たのだが、やはりない。切り取った痕跡もない。まさか増刷したはずもないから、誰かが巧妙にとっていってしまったのだろう。 

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http://www.u-sacred-heart.ac.jp/interview/ksasaki.html
「佐々木先生によると、資料批判の精度は意外と高く、いわゆる歴史ミステリー系のテレビ番組で取り上げられるような「それまでの常識を覆す新発見」はそうそうあるわけではない。」
 いいこと言うね。