『大菩薩峠』もそうだが、私が面白くない小説や映画について、面白いという人に説明してもらいたいという気が、いつもしている。もちろん、いかに面白いかを書いた本というのはあるのだが、これは一方通行なので、対話形式で聞きたいのである。
 ただ、自分は評価しないけれど、好きな人がいるのは分かる、という作家もいる。村上春樹三島由紀夫がそうだ。私は好きではないけれどなんで受けるのかは、夏目漱石ドストエフスキーあたりまでは解明した。推理小説に関しては、もうこれは好きな人は好きなんだろう、と思うことにする。
 そういえば、筒井康隆は、面白くないのもあるが面白いのはあって、ではSFというのを読んでみようと思うと、たいていのSFは筒井ほど面白くない。広瀬正くらいか。『闇の左手』なんて、ジェンダー論の学者が論文書くためにあるみたいな小説である。
 困るのは英文学に多い。ディケンズの『二都物語』とか『大いなる遺産』とか、どこが面白いんだろうか。ディケンズに関しては、登場人物が魅力的だ、というのが常道だが、私にはそれが感じられないのだ。小説の登場人物で私が惚れ込んだのは、川端の『東京の人』の弓子くらいである。
 モームも難物で、というのは、「モーム通俗的と言われるがしかし…」という風に論じられる。だが、「通俗的」というからには面白い、しかし浅い、ということになるはずだが、私にはどうも面白くないのである。『人間の絆』なんて、あまりに退屈で途中で挫折している。逆にヘンリー・ジェイムズは難解だと言われるが、何かの間違いで、筋そのものは別に難解ではないのである。