お笑いの明暗

 牧伸二が自殺した(私が「自死」といういかにも偽善的な言い換えが嫌いなのは言うまでもない)。ポール牧も自殺している。
 子供のころ、昼間の「大正テレビ寄席」で毎日曜日に見ていた。というのは父親が見ていたからで、だから印象は良くないのだが、1972年に田中角栄が総理になった時、「佐藤の次は角砂糖」と牧が歌ったのが、政権交代ということを初めて意識した時だった。もっとも私の場合、物ごころついた時はもう佐藤だったのだが。
 十年ほど前に、久しぶりに牧をテレビで見たら、ウクレレで割と本格的な曲を弾いたのだが、客の受けが悪かったので、冗談めかして「けっこーやるもんでしょー」と言ったので、ああこれはひどい、と思った。
 お笑いの人というのは激しく晩年の明暗が分かれる。盲小せんのような例はともかく、エノケンも戦後は悲惨だった。ロッパも、戦後は振るわず、追悼文で谷崎潤一郎が、舞台をいやいや勤めているのが分かってかわいそうだったと書いている。
 チャップリン北野武は、出世した一方の例だし、永福町に豪邸が建っている伊東四朗もそうだろう。性格俳優に転じる人も多いし、上岡龍太郎のようにすぱっと表舞台から消える人もいる。加藤茶は一時俳優になろうとしていたが、うまくいかなかった。
 藝能の世界では、舞台ー映画ーテレビという序列があったはずだが、最近は、映画俳優になり損ねたテレビ俳優が、舞台に出るようになるという現象もある。いわゆる「商業演劇」についての研究は驚くほど遅れていて、ネット上にも情報がない。早大演博、しっかりせい。