絲山秋子の小説を原作にした映画「やわらかい生活」の荒井晴彦による脚本の『年間代表シナリオ選集』への掲載を絲山が拒否し、荒井が一円の損害賠償を求めて提訴し敗れた事件で、先日荒井および日本シナリオ作家協会からアンケートが来た。
 原告敗訴で確定したのかな? 一審判決文は、映画化について契約した先は荒井ではないという趣旨だったが、妥当な判決だと思うので、荒井に対しては冷淡な回答になったはずである。おそらく、自作小説が映画化された人に送られたアンケートなのだろう。
 一般には、絲山が脚色を気に入らなかった、とされているが、最近でも西村賢太が自作小説の映画化に難色を示して、山下敦弘との対談で険悪な雰囲気にすらなった。
 アンケートで気になったことがあって、現行の著作権法では、原作小説が上位、脚本が下位に置かれているがどう思うか、というのである。著作権法に上位、下位などという表現はなく、「二次創作物」であって、それを勝手に上位下位と言い換えて、どう思うかと、あたかも小説というジャンルが上位で、シナリオが下位であると著作権法が謳っているような印象を与えて問うというのはおかしかろうと思った。
 川端康成は、自作の映画化については、どう変えられても構わないという立場で、岸恵子の『雪国』のロケの時に、サイデンステッカーが監督の豊田四郎を前に、この小説が映画化できますかねえ、と言ったのを、あとで叱責している。
 あと気になる意見もあって、脚色が気に入らないなら契約すべきでないというもので、まず、気に入らないなら意見として言えばいいということはあるとしても、荒井が映画化許諾を得たのは2003年で、絲山はまだ芥川賞をとっていない。弱い立場の作家として、気に入らなくとも自作の映画化というのは嬉しいから、許諾するのもやむをえない。それが、芥川賞をとったので強気になった、と見る人もいるだろうが、それも人間として自然なことである。
 あとなあ。私の小説の映画化の際に、まあ上映前のトークショーとかいうのをやったわけであるが、実は一回、ただ働きさせられたことがあって、終わって控室へ戻って、謝金が出るのかなと思ってぐずぐずしていたら空気が変で、あ、ただなのかと思って帰ってきたことがあった。まああれの場合低予算映画だからいいんだが、絲山にも何かそういうことがあったんじゃないかという気もするんだよね。
 脚本家はそうではないだろうが、小説と映画では、動くカネが全然違うので。