これ、西村幸祐とかいう人なんだが、文学の素人だからこういうことを言うのかと思っていたら、『三田文学』の編集をしていたというから意外だったね。三島のノーベル賞というのはなかった、というのが報道されたのは最近だが、一番おかしいのは『宴のあと』が読まれて三島が左翼だと誤解されてノーベル賞がとれなかった、という話で、これは板坂剛なんかも言っていたかと記憶するが、だいたいノーベル賞委員会って左翼を忌避するのか? 右翼は忌避するだろうが左翼はしないでしょ。サルトルが授与されてるでしょ、ソ連作家も貰ってるでしょ、という話だ。だから三島は死ななかったとしても、あんな右翼的活動をしていたら絶対貰えなかったんだよ。

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吉田恵輔監督、「純喫茶磯辺」に続いて「なま夏」を観た。「純喫茶磯辺」は、麻生久美子が美しかった。しかし「なま夏」は、かなり気味が悪かった。体調を崩した気さえする。三十代かと思える、父親、妹と一緒に住んでいる、山椒魚みたいな顔のハゲの男が主人公で、通勤電車の中で見かける女子高生(蒼井そら)を好きになったのかどうだか、写真を隠し撮りして自室の壁に貼りまくっている。そのうち、熊のぬいぐるみに受信機を埋め込み、彼女に渡して盗聴しようとするが、渡された女子高生は、気持ち悪いと言って捨ててしまい、やけになった男は満員電車内で彼女の背中にナイフを突きつけ、痴漢行為に及ぶが、後ろから押されて刺してしまう。
 男は首つりしようとするが失敗したのみか、首にシャフトが刺さって死にそうになり、入院すると、隣に女子高生が入院していた。何日くらいいたのか知らないが、間のカーテンを通して会話を交わし、親しくなる。ところが明日は女子高生が退院するという日に、彼氏がやってきて、夜中、性行為に及ぼうとし、女子高生は嫌がり、フェラチオを始める。それを知った男は苦しみ、女子高生姿になって彼らの前に現れる。最後は、どうやら絞首刑になったらしい。
 これはいかんと思う。気持ち悪い男を描くのはいいのである。だが、それはリアリティを必要とする。この映画には、不自然な点が多すぎる。まず、部屋中に、明らかに盗撮した写真を貼っているのに、家族がのんきすぎる。次に、熊のぬいぐるみを渡して、持っていてくれると思うのがおかしい。刺しておいて逃げられるのもおかしい。入院して隣というのは論外におかしい。仲良くなるのもおかしいし、顔を見られずにいるのもおかしい。それに、この程度の犯罪で死刑にはならない。
 無理なシナリオであった。