痴人の愛

 「痴人の愛」は何度も映画化されているが、木村恵吾は二度映画化していて、二度目の、安田道代、小沢昭一のものは、DVDにもなっているのだが、最初の、京マチ子宇野重吉のものは、ヴィデオになったことはあるが入手困難、大学図書館でも、東京成徳短大同志社にしかない。それをやっと入手して観た。
 まあ、映画化して面白いものではないのだが、最後、ナオミが家出して、一人しょんぼり家にいる譲治に、どういうわけか「秋刀魚の歌」の朗読がかぶさっていて、これが皮肉で面白いと思った。なぜなら谷崎は妻千代の妹せい子と情事をしていて、それが「痴人の愛」のネタであり、そんな千代に同情して恋慕した佐藤春夫が、それなら俺に譲ってくれと言い、谷崎も、いいよと言ったのが、せい子と結婚しようとしたら断られたので、千代が惜しくなって佐藤にやらなかったため、佐藤と絶交し、佐藤が千代を偲んで作った詩が「秋刀魚の歌」だからである。むろんこの映画が作られたころは、千代は佐藤夫人になっていたし、谷崎は松子を夫人にしていた。